Cosmos and Chaos
Eyecatch

第45章:生き別れの兄弟

  • G
  • 1975字

「私が思うに、ウィリアムズの管理官は、あの子の実の兄だと思う」
 フェリックスはその言葉の内容を吟味するのに一秒かけ、その後それがどうして問題なのかを考えるのに一秒かけたが、よく解らなかったのでオズワルドに尋ねた。因みに、フェリックスが一秒考えると一般人が一分考えるのと同じ位の情報量を処理出来るので、結構考えた事になる。
「それって何か問題なんですか?」
「大アリだな。多分、あの子の命を狙っているのだろう」
 フェリックスは話についていけないので焦った。
「えーと…お兄さんはあの子に相当な恨みでもあるんですか…?」
「さあ解らん。だが、それ以外に考えられないな。若しくは、その兄も誰かに操られているか…」
 フェリックスがさっぱり解らない、という顔をしているので、オズワルドは少し頭を冷やして説明し始めた。
「ラザフォード一族については知っているだろう?」
「え、ああ、はい。盗賊ですよね。昔ウィリアムズを統治してた」
「あの子はその末裔だ。さっき君を襲った者達もだ」
 フェリックスは奥で寝ている子供の方を見た。あれが盗賊? どう見ても普通の少年である。城の管理官も、確かに外国人である事は見た目からはっきりしていたが、普通の一市民に見えた。
「六年前の冬に起こった事件は知っているかな? 子供だから知らないかもしれないな」
「いえ、知ってます。一月十八日の、ラザフォード殲滅作戦の事ですよね?」
 今度はオズワルドが驚く番だった。
「日付まで覚えているのか」
「俺の誕生日だったので」
「そうだったのか。まあ、その事だ。あれは元々殲滅作戦ではなかった。あの子の両親が、あの子の事を私に保護してほしいと頼んできた。私達だけでは少し心配だったので、ちょうどウィリアムズの近くに居たからウィリアムズに協力を願った。その時私は知らなかったのだ。ラザフォードがウィリアムズを追放された一族だと」
 フェリックスは黙ってそれを聞いていた。オズワルドが悔いた様な表情で続ける。
「盗賊だとは知っていたのだがな。だから、せいぜい逮捕されるくらいだと思っていた。しかしウィリアムズはラザフォードを殲滅しようとした…なんとかあの子は助け出したが、他の者は皆死んだ。あの子の兄と、叔父を残してな」
「兄と叔父はその後どうなったんですか?」
 オズワルドは首を振った。
「戦いの途中で我々は逃げたから、詳しくは知らない。だが、二十歳くらいの若い男が戦いの途中で逃げて行くのが見えた。さっき君を襲った髪の長い男だ。あの子が…エドガーに訊いたら、エドガーの属していた一派に二十歳以下の若い者は三人しか居なかったらしい。エドと、兄と、叔父だ」
「なるほど」
「兄の方は、最初は戦いに参加していなかった。エドの両親が、巻き込まれないようにと、先に何処かへ逃がしていたらしいのだが、私達と入れ替わりの様に返って来てしまった。風の噂でウィリアムズの誰かに引き取られたと聞いていたが、本当だったのだな…」
 オズワルドは此処で席を立ち、キッチンでコーヒーを沸かして来た。フェリックスは礼を言って飲む。もうすぐ陽が昇る様な時間帯だ。二人ともかなり眠かった。
「叔父か、兄かどちらかは知らないが、どちらかが…あるいは両方が、エドの所為で一派が途絶えたと考えていてもおかしくはない。それからさっきも叔父が歌っていたが、ラザフォードは魔法を歌に乗せて他人を操る。どちらかがもう一方を操っている可能性もあり得る」
 オズワルドはコーヒーを飲み干すと、お代わりを注いで来て再びベッドに腰掛ける。
「君自身が操られていない様で安心した。操られた者は目的の為に手段を選ばなくなるらしいからな」
「それでさっきあんな質問を」
 フェリックスが納得した。オズワルドは頷く。
「まあ、そんな所だ。とにかく、エドの兄が君に私と会う様言ったのは、それくらいしか理由が思い付かない。これから君はどうする?」
 突然話の流れが自分に向けられ、何にも考えていなかったフェリックスは答えに困った。
「まあ、自分の城に帰るのも危険なら、私達と一緒に行くかい?」
「良いんですか?」
 ろくな旅道具も無いフェリックスにとっては願ってもない提案だった。オズワルドはコーヒーカップに口を付けながら頷く。
「丁度、先日事故で団員が亡くなったばかりで、ベッドにも空きがある。私達はこれから、コリンズの北のマイルズ城に定期公演をしに行く所だが、それまで用心棒の様な仕事をしてもらえないか?」
「用心棒…ですか…」
 不安そうなフェリックスの顔を見て、オズワルドが微笑む。
「心配する事はない。さっきの戦いを見させてもらったが、あれだけ動ければ十分通用する」
 馬車の周囲が明るくなり始めた。夜明けの時刻だった。
「どうする?」
 オズワルドが再度尋ねた。フェリックスの心は、既に決まっていた。
「一緒に行きます」