Cosmos and Chaos
Eyecatch

第33章:成人の儀

  • G
  • 1787字

 いよいよその日がやって来た。ティムの成人の儀、十八歳の誕生会である。今年はたまたま学校が休みの日で、天気は雲一つ無い青空だった。空の向こうに落ちてしまうのではないかと、不安になる程に。
 ティムはウィリアムズ国家の紋章である、後ろ足で立ち上がる青馬の描かれたマントを着て、緊張した面持ちで立っていた。ティムが見詰める扉の向こうには、何万という国民が集まっている…。愛国心だけではなく、十八年間姿を見せなかった謎の王子の姿を一目見ようと、好奇心を抱いた者達だ。
 ティムの肩を、隣に立っていた国王が叩いた。服越しに叩かれたので、記憶は流れ込んで来ない。王は笑っていた。ティムは民衆の前で、ちっとも笑える気がしなかった。
 やがて、王族が国民の前に姿を現す時に使うバルコニーの扉が開いた。右側に国王、左側に王妃が付き添い、ティムはバルコニーの奥へと進む。国民の歓声が五月蝿いと思った。
 ティムの姿が国民に見えるようになると、歓声が少しずつどよめきに変わっていくのが解った。こうなる事は誰しも予想していた。儀式の進行役が何か言ったり、ティムや国王が国民に挨拶を述べても、まじめに聞く者は殆ど居なかった。
(この様子はラジオでも放送されている。国中が震え上がっているだろうな…)
 ティムは、まるで自分が傍観者である様な気分になる事で、国民の視線に押し潰されそうな自分をなんとか保っていた。
(次の国王は悪魔の遣いだと)
 ボイスは家で家業の木工品加工を手伝いながら、ラジオで成人の儀の様子を聞いていた。アナウンサーが、動揺を隠そうとして隠しきれない様子で、『白い髪が美しい王子が…』等と実況していた。
「白い髪だって?」
 ボイスの横で椅子を組み立てていた、ボイスの父親が言った。煙草を口に咥え、禿げ上がった頭にタオルを巻いている。表情や仕草はいかにも頑固親父であった。
「やっぱりそうか。でなきゃ翌日に議会も通してない法律が通るわけないからな」
「親父! フェリックスは…」
 ボイスが抗議しようとしたが、頑固親父は「わかっとるわかっとる」と言って遮った。
「あんなええ子が悪魔の遣いな訳が無い。何もかも迷信だ。だが…」
 父親は放送を続けるラジオを心配そうな目付きで見た。
「それを迷信と解っとる人間が、この国にどれだけ居るかっちゅう問題だな…」

 成人の儀が終わった後の国内は、大っぴらに噂する者は居ないものの、かなりの混乱状態に陥っていた。国王は議会に呼び出され、緊急の会議を行う事となった。主要な大臣達もそれに同席した。
「王子がアルビノだとは、我々は知りませんでしたぞ!」
 議長が机を叩いて大きな声を出した。
「何か問題でも?」
 国王が肩肘を机に付き、手に顎を乗せて尋ねる。
「アルビノが次の国王になるだなんて、国民が納得しませんぞ!」
「ティモシーを国王にするつもりは無い。ただ、それはアルビノだからというのが理由では無い。なあ、大臣」
 国王に話を振られた大臣が頷く。
「とにかく、王子の事についてとやかく言うな。あれへの対処法は此方で既に考えている」
 国王が無理矢理話を打ち切り、部屋を出て行った。向かった先は、ティムの部屋だった。
「ティム、大丈夫か?」
「何が?」
 意外に元気そうなティムに国王は拍子抜けした。国民の前に出る前、あんなに緊張していたし、姿をじろじろ見られたりひそひそ話をされたりで気が滅入っているのではないかと思ったのだ。
 ティムは机でフェリックスからの祝いの手紙を読んでいた。計画の事では色々あったが、フェリックスにとってもティムがかけがえのない友人である事には変わりない。手紙を送って来てくれたほか、ウィスキーボンボンも添えられていた。成人したから、成人してからじゃないと食べられない物を送ってきてくれたのだ。
「それは文通している子からのかい?」
「そうだけど?」
 ティムはウィスキーボンボンを一つ手に取ると、口に投げ込んだ。ウィスキーボンボンは駄菓子と違って王宮にもあるのでいつでも食べられるが、友人から貰った物はまた格別の味がするだろう。
「そうか。邪魔して悪かった」
 そう言って国王は立ち去ろうとした。しかし、背後でドサ、という音がしたので、国王は何が起きたのかと振り返った。
「ティム!」
 王が見た物は、椅子から落ち、元々白い顔を更に青白くして、手足を痙攣させている息子の姿だった。