Cosmos and Chaos
Eyecatch

第19章:黒歴史

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  • 1361字

 アレックスはヴィクトーから疑惑の真実を聞き、ぼうっとした頭で食堂へと向かった。
『今日は俺の昔の家族の命日なんだよ』
 一月十八日。六年前の今日、とある重大な事件が城壁の外で起こった事は、幼かったアレックスの脳にもしっかりと記憶された。
 かの有名な盗賊の一族、ラザフォード一族の一派が、ウィリアムズ衛兵隊によって殲滅された。ヴィクトーはやはり、その一派の生き残りだったのだ。
 国民にとって、それは良いニュースであった。ラザフォード一族は度々ウィリアムズの国民や、ウィリアムズへ輸入品を届ける行商にも被害を出していたので、国民が喜ぶのは当然の事であった。
 しかし、ラザフォード一族にとっては悪いニュースに他ならない。その上、これは単に、一族の一部の者が軍隊に負けたというだけの事件では無かった。アレックスはこの話を噂で聞いただけだが、実しやかにこんな事が囁かれていた。
 殲滅された一派の中に、この事件を起こさせた裏切り者が居る、と。
 アレックスはまた新たな疑念を抱いていた。ヴィクトーがその裏切り者なのではないか。何故なら、その一派は本当に殲滅された…衛兵隊との衝突の中で、一人残らず命を落としたのだ。ただ一人、ヴィクトーを除いて。

「テイラー君」
 突然声を掛けられ、アレックスは実際に少しお尻が椅子から浮いたのではないかと思う位に驚いた。声を掛けたのはクラスメイトの女子だった。まるで男の子の様に髪をショートカットにした、キャサリーン・ミラーという女の子だ。
「此処空いてる?」
 いつぞやにヴィクトーが言ったのと同じ言葉でキャサリーンが尋ねる。アレックスが頷くと、キャサリーンはアレックスの向かいの席、いつもはヴィクトーの指定席に座った。
「今日はあの灰色の先輩居ないの?」
 キャサリーンが言っているのはヴィクトーの事だろう。
「ああ、うん、体調が悪いらしくて」
「ふうん」
 キャサリーンの意味有り気な目線が気になったが、アレックスは久々に受ける周囲からのからかいの視線の方がもっと気になった。ヴィクトーが居る時は、ヴィクトーを恐れてか、あまりじろじろ見られたり、悪戯をされる事が少なかったのだ。
 キャサリーンの世間話に相槌を打ちながら昼食の時間を乗り切ると、二人はバラバラに教室に戻った。午後の一発目は、戦史の授業だった。
 担当の教師が黒板に大きな地図を貼り付けて何やら説明していたが、アレックスは心此処にあらずで、教師ではなくその地図を穴が開く程見詰めていた。常識として知ってはいたが、これまではあまり現実味の無かったこの国の歴史を、アレックスは今日、身をもって知った気がした。
 黒板に貼られた地図は、数世紀前のこの国の周辺の様子を表していた。そして、今ウィリアムズ国がある場所には、大きな文字でこう書かれていた。
The Kingdom of Rutherford[ラザフォード王国]
 そう、この国は昔、ラザフォード一族によって統治されていたのだ。アレックスの耳に、何処か遠くで演説している様な教師の言葉が聴こえた。
「えーそれでですね、この独裁国家はXXX年にチャールズ・ウィリアムズ率いる革命軍によって政権を奪われるのですな。そうそう、今の国王の御先祖様ですよ。そこでラザフォード王国はウィリアムズ王国と名前を変え、昔の王族はその悪事の罰として国外追放される訳ですな………」