第32章:[いびつ]な家族

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  • 1731字

「…っていうか[よわ]っ」
 洞窟に残っていた「砂漠の薔薇」をまとめて取っ捕まえた所で私は言った。連れてきた隊の隊長が「相変わらずお見事な戦術でした」と聞き飽きた言葉で労う。そんなに頻繁に軍に口出しした覚えは無いのだけど…。
「こんなんじゃ一個分隊も必要無かったわね…とりあえず全員連れて帰るわよ」
 さあさあ、と意外にも大人しい盗賊達を急かす。その一人一人の顔を見ながら、私は誰が此処に居ないか…誰が「森」へ赴いているのかを確認した。水色の目の人物も、同じ年頃の少女も居ない…
「アメジスト王女も居ないわね」
「『適合者』だからね。ターコイズが連れてったよ」
…と思ったら居た。快活そうな、少し年上の少女が私に教えてくれる。
 どうやら別の部屋にまだ二人居たらしい。もう一人は自分の父親くらいの歳の、[みどり]の目の男。二人とも抵抗するつもりは無いのか、大人しく後ろ手に縛られて洞窟の外へと向かう。
「『森』へ向かったのはターコイズってお頭とアメジスト王女とブルーレース姫だけ?」
「そうよ」
 後始末は隊員に任せ、私は彼女と男に歩調を合わせ外に出る事にした。
「ベリルへの手紙を止めている仲間なんかがまだ居るのかしら?」
「ああ、そういうのは金で一般人雇ってやってるのよ。ま、私もそういうクチでこの世界に入ったんだけど」
 そう言いながら彼女が私を見て微笑む。
「…覚えてくれてないの? パライバちゃん」
 その呼びかけの響きに言われれば覚えがある気がして私は記憶を手繰り寄せた。

「あら、折角帰ってきたのにパパも兄さんも学校なの?」
「学園祭だそうよ。私は人混み苦手だから行かないけど、行ってきたらどう?」
 ベリルから数ヶ月に一度だけ、私は本当の親元に帰る。なのによりによって私の手が空いて帰って来れた休日に限って、家族の誰かしらが留守だった。特に、兄さんとか。
「そうね…身を窶せばベリルの姫だなんて気付かれないわよね…」
 ベリルから連れて来た護衛には「緊急時以外は半径十歩以内には近付くな」と言い含め、私は実父の勤め先兼兄さんの通う士官学校に出向いた。
 入口のちゃちい作りのモニュメントの脇を通り過ぎ、私は学内を二人を探して歩き回る。
「何かお探しですか?」
 一人の女生徒が私に声をかけてきた。
「人を…オーレン・トルマリンとサージェナイト・クォーツを探しています」
「トルマリン先生を?」
「あ…娘なんです…」
「そうなの。先生は多分職員室だと思うけど、待って、クオーツ君はそこに居るから。クォーツ君!」
 模擬店らしき教室に向かって彼女が叫ぶ。接客やら調理やらをしていた男子生徒が何人か振り向いた。ありふれた名字によくある現象だ。
「…って呼ぶとこういう事になるのよね…ごめん、サージェナイトの事」
「パライバ!?」
 制服の上にエプロンを着けて接客していた兄さんが私に気付いて駆け寄ってきた。
「ベリルから帰って来るなら家族に手紙くらい寄越…」
 ここでうっかり失言してしまった事に気付き、ハッとして言葉を止める。
「ベリル?」
 良く似た私達の顔を見比べながら彼女が尋ねた。学校では、私の父と兄が義理の親子であるとはあまり知られて居ないらしい。当然、娘の私と兄さんの関係等、彼女が知る由も無い。
「アゲートさんちょっと来て」
 兄さんは彼女の手を引っ張って人の少ない学校の裏手まで連れて行った。後ろから追いつつ言う。
「言っておくけど私、手紙出したわよ? ママ達から聴いてなかったの?」
 兄さんはアゲートさんの腕を放して無言で歩き続けた。アゲートさんは困惑した表情で私と兄さんの顔を交互に見ながらついて来る。
「…またフラフラ家に寄り付いてなかったんでしょ、兄さん」
 兄さんは私が物心ついた時には既にそうだった。私とパパとママ、ちゃんと血の繋がった親子の中に一人、半分だけしか血の繋がらない、失われた王子様が居た。
 私が生まれて少しずつ家の中から居場所を失っていく兄を見兼ねて、両親は共働きだという事もあって私を養女に出したというのに。私は兄さんに「トルマリン家の子供」という居場所を返してあげたのに。
「きょうだいなの?」
「まあね」
 人気の無い校舎裏で兄さんが口を開いた。
「事情を説明するよ。内密にしておいてほしい…」

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