第21章:脱走 part.2

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  • 2061字

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初登場ドランクが理想の最強ミステリアスお兄さんムーブしてたり。
霧の島の話までは入っています。


 仲間が皆寝静まった頃、私は父親に手を引かれ、洞窟の入り口…鬱蒼とした山の中の崖っぷちに来ていた。
「ジェダイド…」
 シッとジェダイドが私の口に手を当てる。
「こんな事もあるかと思って見張りを買ってでたんだ」
 言って崖の下方を指差す。
「この斜面に沿って行けば下まで下りられる。そうしたら真っ直ぐ西に向かって歩け」
「西?」
「日が沈む方向だ。一日過ごせば解るだろう。今向いているのが西だ」
 ここで物音がした気がして、私達はパッと振り返る。気の所為だと判ると、ジェダイドは続けた。
「西に行けばベリル国がある。そこにローズ達が居る筈だ」
「鏡を取ってくれば良いの?」
 ジェダイドは首を横に振る。
「ベリルが鏡を大人しく渡してくれれば良いが…お前は何もしなくて良い。そこで匿ってもらえ」
「なん…」
「ターコイズは血も涙も無い。邪魔だと思えば仲間だろうが容赦無いんだ。さあ行け、シトリン」
 私は父の言葉に納得は出来なかったけれど、それでも命が惜しくて彼の指示に従った。上着の中に隠した短剣を確認し、身軽な足取りで崖を下って行った。残ったジェダイドの身を案じながら。

「…おかしいわね」
 サージェナイトがベリルを発って三日目。ボクとローズと三人で部屋に居る時にパライバが言った。
「兄さん、クォーツに着いたら連絡くれるって言ってたのに」
「まだ無いの?」
 曰く、「迷いの森」を抜ければその日の内にクォーツ領土に入れるし、そこから馬車を使えば王宮まではすぐだ。クォーツからベリルまで伝書鳩は一日あれば飛べる。
「途中で何かあったのかしら?」
 ローズが心配げに口に手を当てる。
「うーん、実はママに毎日手紙をくれるように頼んであったんだけど、それも数日前から止まってて。兄さんに何かあったのかもしれないけど、どちらかというとベリルに入る鳩を止められてるか、クォーツ側で止めてるかのどっちかじゃないかしら。流石にクォーツが壊滅的になれば周辺領からの連絡もくるだろうし」
 と、此処で彼女は窓の向こう側を見据えて言った。
「多分もうバレてるわよ、此処に適合者が居る事」

 言われた通り西に向かうと町が見えてきた。向こうの方には城も見える。ベリル国だ。
「あれあんた見てみい」
 農民風の女性が、夫と思われる人物に私を指差しながら言った。
「あれ王女様じゃないかね?」
「んなこたねーべ、他人の空似じゃろ」
「そうかねえ…でも王女様行方不明って…」
 私は急いでその場を立ち去った。私とローズってそんなに似てるのか。
 …とりあえずどうすれば良いんだろう。匿ってもらえ? 城に行けば良いのかな…。
 ともかく城を目指していたら、すれ違った髪の赤い少年に呼び止められた。
「ローズ!? …じゃないって事は…シトリン姫?」
 姫と呼ばれるのは初めてで少し照れる。
「なんだよ鏡盗みに来たのか?」
 しかし少年は警戒して刺々しい口調で尋ねる。私は頬を膨らませた。
「違うもん! 逃げてきたんだもん!」
「逃げてきたぁ?」
 少年は腰の剣に手を添えたままどうするか考えていたけど、短気な私はこう言った。
「ベリル城で匿ってほしいの!」

「あーら、客人だわ」
 窓の外を睨むかの様に眺めていたパライバが言う。ボクとローズがその脇から覗くと、ルビィが長ズボン姿の女の子を連れて帰ってきていた。
 その顔がローズに瓜二つだった。
「あれ!」
「急ぎましょう!」
 ボク達は階下へと急いだ。玄関では先に到着していたオニキスが剣を抜いて警戒している。
「どうするパライバ、こいつの言う事信用するか?」
「ま、事情も聴きたいし一度通してあげても良いでしょう。あなた独りで来たのね? 仲間は連れて来てない?」
 パライバはシトリンに確認すると、念の為ルビィを臨時周辺警備の指揮官に据えて彼女を城の中に入れた。
「…身体チェックはさせてもらうわよ。ルチル、手伝って」
 武器や怪しげな物を持っていないか確認する為に、一室でシトリンの服を脱がせ、代わりにパライバのドレスを着せてあげると、本当にシトリンはローズそっくりだった。
 唯一持っていた短剣は部屋の外で待っていたオニキスに預ける。ボクが彼の手に触れないようにして渡したのが判ったらしく、オニキスは益々ブスッとした顔付きでそれを懐に仕舞った。
「ローズは部屋?」
「ああ」
 パライバがシトリンの背中を押しながら出てきて尋ねる。そこにベリル領の初老の大臣がやってきた。
「モルガナイト様! 一大事ですぞ!」
「何が? 忙しいからくだらない内容は後にして」
「領土に入ってくる全ての伝書鳩が止められています!」
「なあに、今頃気付いたの? とっくに周辺に怪しい奴らが居ないか捜索隊は出してるわよ。ああ、あとこの服洗濯に出しといて。お義母様が私を探し出したら買い物に行ったとでも言っといて少し邪魔されたくないの」
 一気に言うとパライバは大臣にシトリンが着ていた服を押し付けた。可哀相な大臣…多分無能でも何でもないんだろうけど、パライバの前じゃ使用人同然になってる…。
「さ、部屋に行ってお話聴かせてもらおうじゃないの」

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