Cosmos and Chaos
Eyecatch

第6章:思わぬ再会

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 城の外でフェリックスとブルーナ、そしてヴィクトーとルークリシャは二手に分かれた。テイラー夫妻はコリンズの綺麗な空気を堪能しに、少し郊外の方を散歩してくるとの事。ヴィクトーはルークリシャの希望で、市場で買い物をする事にした。
「歩いて行こうぜ。車で行く方が駐車スペースとか面倒だ」
 荷物は車のトランクに押し込み、お金だけを持って歩き出す。
「ねーねー」
 ルークリシャが腰の刀の鞘を触ったので、ヴィクトーは反射的に彼女の手を捕まえてやめさせた。
「ひゃあっ」
「お前これが何か解ってやってる?」
「刀でしょ?」
「刀だよ」
「触っちゃダメなの?」
「当たり前だ!」
 今触ったのは鞘だから、直接的に怪我をする事は無い。しかし、誤って刀身が鞘から抜け落ちたりすれば、ヴィクトーやルークリシャが怪我をしないとも限らない。
 それに、子供が武器を触るべきではない。これはエリオットの強い願いであった。ヴィクトーはその願いを身を以って知っていたから、ルークリシャには何があっても自分の持っている刃物を触らせたくなかった。例えふざけてやっている事としてもだ。
 ヴィクトーに腕を掴まれたルークリシャは、そのまま彼の手を握って横に並ぶ。
「スーツに刀似合わなーい」
「知ってるー」
「軍の制服の時は凄く似合ってるけどね」
「そう」
 ヴィクトーが気の無い返事をして、足を止めた。彼はとある路地を見詰めていた。
「何かあるの?」
「いや」
 ヴィクトーは微笑んで再び歩き出す。
「昔ドロシーにあそこでぶつかったなって思って」
「聞いて良い?」
 ルークリシャがヴィクトーの腕を引っ張って問う。ヴィクトーは続きを促した。
「あの女王様とどういう関係なの?」
「だから、誘拐未遂犯と被害者」
「何でそんなに仲良さそうなの!?」
「別に仲良い訳じゃねーよ。お互い話しやすい性格なだけだろ」
 ルークリシャは尚も納得がいかない様に頬を膨らませる。ヴィクトーはそれを見て笑うと、人気の無い横道に彼女を連れ込んだ。少し背を丸めて、怒った彼女の顔に自分の顔を近付ける。
「妬いてんの?」
「…そうよ!」
「俺人妻には興味ねーよ」
 言って彼女の頬を挟み、膨らんだ頬を潰す。その手を離さずにルークリシャをけしかける。
「午前中の続きする? お父上に邪魔されたからな…」
 今度はルークリシャに心の準備をする暇を与えてやった。ルークリシャが覚悟を決め、ヴィクトーの背中に腕を回した所で、ヴィクトーは彼女に口付けようとした。
 が、突如路地に面していた扉が開き、その中から出て来た人物と眼が合う。
「「えっ?」」
 扉の中から出て来た人物と、ヴィクトーが同時に驚きの声を上げた。
「兄さん!?」
「エド!?」
「エドガー・ラザフォード!?」
 今度は三人で叫ぶ。ルークリシャはヴィクトーと、今や国際的に有名な俳優、エドガー・ラザフォードの顔を見比べ、もう一度叫んだ。
「えっ!?」

「兄さんがロリコンだとは知らなかった…」
 エドの言葉に、ヴィクトーは容赦無く弟を殴る。
「お前本人の前で言うなっつの!」
 三人は小さな喫茶店のテラスでお茶を飲んでいた。
「殴らないでよ顔は役者の命なのに」
「顔以外なら良かったのか?」
 ヴィクトーは口の端を吊り上げる。エドガーも微笑んだ。
「ところで実際どういう関係なの? この子とは」
「義理の妹だよ」
「近親相姦!?」
 エドは口を押さえ、サングラス越しにヴィクトーを文字通り白い目で見る。
「血は繋がってないから違う!」
「冗談だよ」
 本気になって怒る兄を可笑しそうに笑いながら、彼はルークリシャに手を差し出した。
「初めまして。エドガー・ラザフォードです」
「はっ初めまして」
 ルークリシャは憧れの俳優と握手が出来て少し浮かれた。
「ルークリシャ・フィッツジェラルドです」
 それを見たヴィクトーはまた嫉妬し、ジュースのストローを口から離して少し苛立った口調で尋ねる。
「何でコリンズに居るんだ?」
「そっちこそ」
 エドはスプーンで紅茶を掻き混ぜながら質問を返した。
「映画の撮影が終わった所で、ちょっと長めの休みが取れたから突然ウィリアムズに行って兄さんを驚かせようと思ったのに」
「いや十分驚いたから」
「直接ウィリアムズに行くよりも、コリンズから地下道通って行く方が安全だって聞いて、ついでに観光してたとこ」
「なるほどな。俺はこの国に引っ越したダチに会いに来ただけ。フェリックスも来てるぞ」
「そうなんだ」
「あ、あの~」
 ルークリシャが怖ず怖ずと口を挟む。
「お二人はどういう関係…?」
「兄弟だよ。血の繋がった」
 エドの答えを聞いてルークリシャは再度二人の顔を見比べる。彼女の言いたい事を汲み取り、エドが口を開いた。
「昔はもっと似てたんだけどね」
「まあ母親違うしな。エドが段々あの[ひと]に似てきたから」
 ルークリシャはまた一つヴィクトーの複雑な事情を知り、困惑する。
「兄さんこの子に何も教えてないの?」
 ルークリシャの顔色を見てエドが尋ねる。
「子供にする話じゃ無いだろうと思って。それに昔の話したって何か変わる訳じゃなし」
「そりゃそうだけど、曲がりなりにも恋人なんでしょ?」
「昨日そうなったばっかりだ。まだ話す時間もねーよ」
「へーえ」
 エドの意味有り気な視線に、ヴィクトーはドキドキしながら会話を逸らす。
「そっそういえば、エド、お前親父と同じ事出来るか?」
「どの父親?」
「お前と俺の共通の父親。会った人間の顔と名前覚えるやつ」
「あんなん無理でしょ普通に」
 エドはひらひらと手を振る。
「僕なんか常連のお客さんの名前覚えるのに精一杯なのに。お父さんよっぽど記憶力良かったんだね」
 此処でエドはある不可解な事を思い出した。
「…兄さん」
「ん?」
 やはり父親と自分だけの能力なのかと、自分の能力が超能力かもしれない証拠を一つ手に入れて少し機嫌が良くなったヴィクトーは、ルークリシャの食べているパフェを一口貰おうとしてやめた。
「普通、襲った相手の名前なんて聞かないよね…」
 ヴィクトーの顔から血の気が引くと同時に、心臓が高鳴り始めた。
「聞かないな。聞いたりしたら情が移って殺したり売ったり出来なくなるし、第一戦ってる最中にそんな悠長な事やってられるか」
「だったらなんでお父さんは被害者全員の名前を知ってたんだろう」
 彼等の父親ネスターは、毎晩その日殺した人間の名前を読み上げ、彼が信仰する神に祈っていた。盗賊が神を信じている等、仲間に知れたら笑い者どころでは済まないかもしれないので、妻や息子達は彼の習慣については決して口外しない様言い付けられていた。
「…なんでだろうな」
 ヴィクトーはそれに対して適当な答えを出す事が出来なかった。