第27章:冤罪

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  • 2368字

 既に亡命する為の荷物をまとめ終わり、父親や友人達とも離れ離れになってしまう覚悟を決めて、ただその時を待っていたブルーナは、ラジオを聞いて開いた口が塞がらなかった。
 まず、ティムが何者かに毒を盛られた。これには驚きはしたが、以前ティムは何か企みがあるのに詳しくを語らなかったので、この事だろうと思ってあまり心配しなかった。
 しかし、夕方のニュースを聞いた時は、衝撃のあまり自分の部屋で気を失いかけた。
(フェリックスを逮捕するってどういう事よ!?)
 ブルーナはそわそわし、不安でなかなか寝付けなかった。最終的に、アレックスかヴィクトーに連絡して意見を聞こうという決定をした。
(…って、繋がらないし…)
 ブルーナは溜息を吐いて受話器を置いた。アレックスの家は、もう三回も掛けているがずっと通話中だ。ブルーナはヴィクトーの家の番号を知らないので、北門に掛けてみる事にした。電話帳から北門の詰所の番号を探し出し、電話を掛ける。
「夜分申し訳ございません。緊急に相談したい事がありまして…ヴィクトー・フィッツジェラルド氏をお願いします」
 詰所に居た別の入出国管理官はめんどくさそうに答えた。
「今はフィッツジェラルドの勤務時間外なので此処には居ません。自宅にお掛けになって下さい」
「あ、あの、自宅の番号を知らなくて、良ければ教えて頂きたいのですが…」
「それは個人情報保護の観点から出来ませんね」
「そうですか…ありがとうございました。失礼します」
 電話を切り、自分の部屋へと戻る。不安だけが募るばかりだった。
(明日アレックスに会いに行かないと…)

「「ブルーナ!」」
 翌日、学校に着くと既にボイスとハンナが待ち構えていた。
「聞いた? 昨日のニュース」
「今日の朝アレックスに確認したらやっぱり誤認逮捕だって言ってたぜ! 放課後アレックスと俺達三人で抗議しに行くぞ!」
 今日ほど授業が長ったらしく感じられた日は無かった。学校が終わると直ぐにブルーナ達はアレックスとの待ち合わせ場所まで急いだ。
「居た居た」
 城の近くの公園に急ぎ足で到着すると、馬と、新しい彼女を連れたアレックスが真っ青な顔でベンチに座っていた。
「アレックス!」
 ボイスが声をかけると、アレックスとケイティが振り向く。ケイティは心配そうな顔でアレックスの肩に手を置いていた。
「体調悪いのか?」
 アレックスは胸に手を当て、首を横に振った。手には携帯ラジオを持っている。アレックスは黙ってその音量を上げ、皆に聞こえる様にした。
 暫く三人はニュースに聞き入っていたが、まず最初に腰を抜かしたのはブルーナだった。隣に居たハンナが慌てて彼女を支え、アレックスの隣に座らせる。ボイスが目を見開いて、ニュースキャスターの言った言葉を繰り返した。
「死刑…?」
 最早ニュースはフェリックスの名前を隠匿していなかった。はっきりと、しかし感情を押し殺した声で、ニュースキャスターがフェリックス・テイラーに死刑判決が下った事を伝えていた。
「フェリックスが死刑…?」
 ボイスの顔からも血の気が引いていた。頭ではその言葉を理解していても、心が決して受け入れようとしていない顔をしていた。
「なんでだよ!? フェリックスは無実なんだろ! それに裁判も無しに判決って、議会は何やってんだ!」
 ボイスは近くに生えていた木の幹を殴った。指が切れて血が流れたが、気にしている場合ではない。
「行くぞ! 城に殴り込みだ!」
「やめろ!」
 突然アレックスが大きな声を出したので、その場に居た全員が驚いた。木に括りつけられていた馬も、不穏な空気を感じ取って小さく鳴く。
「なんでだよ!?」
 ボイスが怒りをアレックスに向けた。アレックスは唇を噛み、首を振る。
「駄目だ。行かない方が良い。そんなに行きたいなら、ボイス達だけで行けよ…」
 そう言うとアレックスはケイティを馬に乗せ、その場を去った。残された三人は暫く呆然としていたが、暫くして三人だけで城へと抗議しに行った。当然の事ながら、三人の学生は文字通りに門前払いを食らった。

「どうしたのアレックス?」
 ケイティを郊外のアパートまで送り届けると、アレックスはケイティを抱き締めた。
「選んでケイティ」
 アレックスは彼女の耳元で言う。
「俺に付いて来るか、家族と此処に残るか…」
「何それプロポーズ? こんな時に?」
「こんな時だから」
 アレックスはケイティの顔を見たくなかったし、自分の顔も見られたくなかったので、ケイティを抱き締めたまま放さなかった。ケイティは暫く考え込んでいたが、やがて、こう言った。
「あんた、何か知ってるんだ?」
「うーん、まあね…」
 ケイティはアレックスを力ずくで引き剥がすと、情けなくも半泣きになっているアレックスの顔を見て笑った。
「あんたがしようとしてる事が、正しいって解ったら付いて行ってあげる」
 そう言うとケイティはぴょん、と跳んで、自分より頭一つ分背の高いアレックスにキスをした。と思ったら、さっと踵を返して家の中に入ってしまった。
(…ファーストキスは自分からって思ってたのにしくった…)
 アレックスは頬を赤らめ、頭をくしゃくしゃと掻きながら馬に跨ると、胸ポケットから手紙を取り出した。さっきラジオを聴いていた時に、突然ポケットの中に送り付けられてきたのだ。相も変わらず差出人は不明だが、書いていなくてもこんな事をするのは一人しか居ない。
 アレックスは恐る恐る手紙を広げた。内容が「お前の兄貴は言う事を聞かないので死刑にしてやった」等というものだったらどうしよう。
 アレックスはその手紙を三回読み直した後、ポケットに乱暴に押し込んだ。両手で頬を叩き、気持ちをしっかりさせる。
(兄貴を助けられるのは俺しか居ない!)
 アレックスは馬の腹を蹴ると、急いで国の中心部へと逆戻りした。

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