Cosmos and Chaos
Eyecatch

第34章:冤罪

  • G
  • 1689字

 王子が何者かに暗殺されかけたというニュースは、午後には国中に広がっていた。王子がアルビノだというニュースよりも、広がり方が早かったのではないか。アレックスは出窓に腰掛けて裏庭を見ながら思った。
 フェリックスが裏庭で色々な植物の葉や茎や根等を採取していた。ティムが盛られた毒の解毒剤を作ろうとしているらしい。
(兄貴がやらなくたって王室付きの奴等がやるよ…)
 アレックスは何となく、王子暗殺未遂事件の真相を予想出来ていた。間違っている気はしなかった。現に、ティムは命を取り留めた事も、風の噂で伝わってきていた。
(ほら来た)
 道の向こうから、警察隊が歩いて来るのが見えたので、アレックスは出窓から飛び降りて裏庭へと急いだ。しかし、アレックスが庭に出た時には、既にフェリックスが警察隊に声を掛けられていた。
「フェリックス・ロイ・テイラーか?」
 変なとげとげした葉っぱを摘み取っていたフェリックスは、怪訝そうに答えた。
「そうですけど…何か…?」
「お前に逮捕状が出ている」
 フェリックスは一瞬キョトンとした後、眉根を寄せてオウム返しした。
「逮捕状?」
「お昼頃、ティモシー殿下が何者かに毒殺されかけた。その時食べていた物は、お前が送ったウィスキーボンボンだった」
 アレックスは家の中に両親を呼びに戻った。今日は店も休みなので、父親なんかは寝室でパジャマ姿のままごろごろしていたが、アレックスが状況を伝えると二人とも裏庭へとすっ飛んで来た。
「そんな! 俺はティムを毒殺しようだなんて…」
「此方には証拠がある。お前の送ったお菓子から毒が検出されているんだ。部屋を捜索させてもらう」
 そう言うと警察隊は、アレックスや両親を押しのけて家に入った。
「部屋を案内しろ」
 フェリックスは抗い様が無かった。警察隊の先頭に立って三階へと上る。
(やられた…)
 フェリックスはティムを恨んだ。俺にポイゾナフラーを送って来たのは、これが目的だったのか。
「棚を開けろ」
 硝子戸の内側にポイゾナフラーの毒を確認した警察隊が言った。フェリックスは大人しく棚の魔法を解く。警察隊の部下達が手早く棚の中の薬品類を押収して行った。
「他に薬物、毒物等持っていたら、今の内に全部出すんだな」
 頭に拳銃を向けて脅され、フェリックスはポイゾナフラーの種を机から取り出した。
「どうやって手に入れた?」
「王子が誕生日プレゼントにくれたんですよ」
「それを王子の誕生日に返品したという訳か」
 警察隊の何人かがへらへらと笑った。フェリックスは怒りの目を一番偉そうな警察官に向けていたが、相手は全く動じていなかった。
「これで全部か?」
 フェリックスは答えなかった。ポイゾナフラーの株は既に枯れ、植木鉢には何も入っていない。ただ、いつも肌身離さず持ち歩いている、あれだけは手放したくなかった。
「全部か?」
 警察がフェリックスのこめかみに拳銃を押しつけた。
(殺したきゃ殺せよ…)
 そう思いつつも、結局フェリックスはズボンのポケットに手を伸ばし、薄い桃色の液体の入った瓶を警察に渡した。
「これは何だ?」
「…媚薬ですよ」
 フェリックスは後ろ手に手錠を掛けられながら言った。魔法を使えなくする手錠だ。最初から解っていたが、もう逃げる事は不可能に思われた。
「良いか坊主」
 フェリックスは再び背中に銃を突き付けられながら、階段を下りた。
「この国では『媚薬』じゃなくて『媚毒』だぞ」
 フェリックスはイライラして答えた。
「知ってます」
 フェリックスの反抗的な態度に腹を立てた警察が背中を銃で押したので、フェリックスは危うく階段を転げ落ちそうになった。
 裏口の所で家族が心配そうな目をして立っていた。母親等は今にも泣きだしそうだった。
「心配しないでママ」
 横を通り過ぎる時にフェリックスは訴えた。
「俺はやってない」
 フェリックスはそのまま歩いて城まで連れて行かれる事になった。馬車で行くほどの距離でも無いが、もう少し容疑者のプライバシーに配慮してほしいものである。
(俺をどうする気だよティム…)
 そびえ立つ城の塔を睨みながら、フェリックスは警察に囲まれて歩き続けた。