第18章:育ちの違い

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「シトリン…上手くやってるかしら」
 ブルーレースの言葉に私は本を読むのをやめた。眼鏡を置いて、洞窟の壁に飾られている宝剣を眺めているブルーレースの隣へ行く。まったく、こいつはターコイズが出掛けるといっつもおセンチになるんだから。
「私がみっっっちり礼儀作法言葉遣い叩き込んだから暫くは上手くやるわよぉ、[かつら]がズレない限り」
 ターコイズがシトリンに盗品のドレスを着せ、クオーツ城に侵入させて王冠を奪おうと言い出したのは、シトリンがふざけて宝剣で遊んでいた時だった。
『シトリン! あんたちょっとは大人しく出来ないの!?』
 五月蝿くてしょうがなかったので私が剣を掴んでやめさせると、突然それが光り出したのだった。
『うわぁ!』
 びっくりしてブルーレースにパスしても、光は消えない。彼女が恐る恐るそれを元の場所に戻すと漸く、ただの古い剣に戻った。
 その様子を見ていたターコイズが言い出したのだった。
 元々、誰がどの神器を使うか、決めてあった訳じゃない。単にシトリンが王冠が良いと言い、宝剣を盗んできた時にターコイズに懐いているブルーレースに彼が持たせてみたので、なんとなく役割が決まってしまっただけだった。
「…あの時ブルーレース、手袋してたんだっけか」
 そういえばあの時は光っていなかったな、と思い出す。
「ああ、汚しちゃいけないと思って。結局シトリンがベタベタ素手で触ってたけど」
 言いながら考えている事は私と同じらしい。
 シトリンは神器を使えない。

 地下へと続く階段を、レーザー王の背中を追って下りていた。裾の長いドレスは着慣れないから、躓きそうになると、王が手を差し延べて支えてくれた。
 これがキングダムガーデンの王様かあ…ぶよぶよ太っちょ。
「…そのドレス、新しく仕立てたのか? ちょっと古風だな」
「似合わない?」
「いや、大人っぽく見えるよ」
 ローズじゃないとばれないようにするのが思った以上に大変。言葉遣い、身のこなし、お姫様って大変なんだなあ、このドレスも靴も窮屈だし。
「アメジスト」
 王が明かりを掲げ、地下牢の奥に呼びかけた。中から赤みがかった髪の女性が姿を現す。
「ローズ、君の本当のお母さんだ。大罪を犯して、こうして牢に入っている」
「お母様っ」
 私は彼女に駆け寄ると、彼女は突然の事に困惑した様な顔をした。
「ローズ…なの…?」
 私は檻の中に手を突っ込み、母親の腕を取って引き寄せた。王様に聞こえない様に囁く。
「シトリンだよ」
 そう言った時、地下へと続く階段に通じる扉が、荒々しい音と共に開いた。

「父上! それはローズ王女じゃありません!」
 僕が階段を駆け降りて知らせると、ローズ王女の偽物…恐らくシトリン王女は素早く隠し持っていた短剣を抜くと、看守を人質に捕らえた。
「もうバレちゃったのー? はーやーいー」
 そう言って舌を出す。
「ローズじゃない…?」
 王は俄には信じ難い様だった。
「そうですね、シトリン姫」
 僕が正体まで言い当てたのが気に入らなかったのか、シトリンは頬を膨らませる。
「ま、バレちゃったら仕方ないねー」
 彼女は看守を脅して牢の鍵を開けさせる。戸惑いながらも、牢に閉じ込められていた女性…アメジスト王女が出てきた。
「…大人しく捕まってくれませんかねえ?」
 僕が抜いた剣を見せ付けても、シトリンは動じない。
「やーだよーっと」
 そう言って鬘を取ると息を吸い、準備していたらしい目隠しの煙が出る瓶を投げた。換気の悪い地下はあっと言う間に煙が充満し、僕と王が視界の遮断と咳に苦しんでいる間を縫って彼女達は地上へと逃げた。
「ローズ様!? その方は…?」
「どいて! じゃないとこの人殺すわよ!」
 シトリンの後を追って僕達が地上階に出ると、母や使用人や兵士達が呆気に取られていた。なんせ、死んだ筈のアメジスト王女の手を引いて、反対側の手に短剣を握ったローズ王女そっくりな少女が突然現れたのだから。
 それよりも、平然と「この人殺すわよ!」と脅迫出来るシトリンにショックを受けた。ローズは正義感が強くて、自分の身を顧みず、見ず知らずのパライバを心配して行動するくらいなのに…。
 シトリンが走り去ろうとする扉の近くに見覚えのある顔があった。確か士官学校で一緒だったアイ・アゲートだ、メイドになっていたのか。僕は走りながら叫ぶ。
「アゲートさん! その子捕まえて!」
 彼女は僕の事を覚えていたらしく、此方を見て一瞬笑うと、僕の期待に反して他の兵士達を押さえ込む形でシトリン王女の退路を確保した。
「なっ…」
「ま、金に目が眩んだってやつよ。あんたのギリ父と一緒で」
 シトリンを逃がし、自分も外に出ながら捨て台詞の様にそう言った。確かにアゲート家は貧しいって聞いてたけど…盗賊に荷担するなんて。
義父[ちち]は盗賊なんかとは取引してない!」
 僕が扉の所に来た時には、三人とも城の外に逃げおおせた後だった。城の外の兵士達は、予めアイが薬で眠らせていたらしく、彼女達を追跡する者は誰も居なかった。
「くっ…逃げられた…」
 ローズに最初の手紙を届けたのもアイだろう、と考えていると、ある重要な事を思い出す。
「父…レーザー王! 王冠は?」
「すまないサージェナイト…」
 漸く追い付いた両親がすまなさそうな顔をしていた。禿げかかった父の頭の上に、王冠が無い。
「煙を焚かれた時に盗られた様だ…」
 シトリンが適合者なら掴んだ時に光る筈。という事はシトリンが不適合者だったのか…。
「…って、王冠まで盗られた!?」
 二つ目の神器も盗まれた…という事は。
「ルチルが危ない! 彼女は今ベリルに居るんです!」

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