第15章:憎めない人

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 後から気付いた話、俺に宛がわれた部屋とルチル達に宛がわれた部屋は階が一つ違うだけで城の中での位置も周囲の廊下の外装も扉の形も全く一緒だったそうだ。
 その時俺は湯殿の帰り、夕食で振る舞われた酒に酔って、一つ階を上がり忘れている事に気付かずにその扉を開けた。
 初めはルチルが着替えているのだと思った。だから俺は部屋を間違えた事を詫びて立ち去るつもりだった。
 が、そうは出来なかった。ルチルが着替えている、それは確かにそうだった。だが俺は見てしまったのだ。
 ルチルの胸が膨らんでいる所を…。
「!?」
 俺はとりあえず慌てて部屋を出て扉を閉めた。何…だと……ルチルって男じゃなかったのか? 服着てる時全然体格女じゃないし…。
 と、此処で気付く。奴はローズ姫の護衛の為に服の中に鎧を仕込んでいた事に。
 そうか…髪型と服装にまんまと騙されていた訳だ。もしかして、俺がルチルの事を「小僧」扱いする度にサージェが含み笑いしてたのはこれか?
 彼女が着替え終わるのに十分な時間待ってから、それでも自分の目が幻を見ただけだと信じたかった俺は、もう一度部屋の扉を開けた。
「どうしたのオニキス?」
 ルチルは何も無かったかの様子で俺に尋ねる。やはり俺の目の錯覚か?
 この後の俺の行動は、完全に酔っていたとしか思えない。そもそも目の錯覚だと思っていたので、何も問題が無いと思ったのだ。
 とりあえず、手で確かめようと思い、ルチルの胸に手を当ててみた。
 固い甲冑の感触がしただけで何も判らなかった。
「…君、酔ってるね?」
 ルチルがそう確認した気がするが自分が何と答えたかは覚えていない。
「…歯を食い縛りなさい!」
 次の瞬間、俺は左頬に強い衝撃を受け、そこから後の記憶は次の日の朝まで無い。

 突然オニキスが部屋の扉を開けたと思ったら直ぐに出て行って、暫くして入ってきたと思ったら胸を触るとは…まあ、いつもの如く鎧着てたから問題無いけど。
「あら、どうしてオニキスが倒れてるの?」
 部屋に戻ってきたローズが尋ねる。ボクは彼を引きずって廊下に出しながら言った。
「ローズ、ボクもオニキスと君が結婚するのに反対だよ。たった今から」

「何だってショール?」
 レーザー王が私に聞き返した。
「サージェナイトも数日家に帰ってない?」
「ええ、普段からカルセドニーの御子息とあちこちふらふらして連絡が付かない事はあるのですけど…でもこんな時に居ないなんてなんだか心配で」
 私の教え子であるローズ王女とルチル王女が行方を眩ませて五日目。私とレーザー王との間の息子サージェナイトとも連絡が付いていなかった。
「パライバと魔鏡の方はベリル城で無事との事」
「そうかそうか。うーんしかし心配だな、実はカルセドニーの子息が一枚噛んでいるらしい」
 レーザー王は、警察隊がカルセドニーの子息と接触し、彼に王女の捜索を任せた後に双方とも行方を眩ませた事実を教えてくれた。
「では皆一緒に居る可能性もありますわね」
「そうだな。それから、アメジストの方は『知らない』の一点張りだ」
「そうですか…」
 ふう、と溜息を吐いてレーザー王を見つめる。彼もまた、私を見つめていたが、私は城を辞した。
 十七年前、アメジスト王女が子供を身籠らなければ、私が王妃として彼と結婚出来る筈だったのに。愛しいサージェナイトが王子様になる予定だったのに。
 それでも、と私は首を振った。それでも、今はもう、私はパライバの父と一緒になり、彼と共に生活してるのだから、諦めなければいけない。何もかも、過去の事なのだ。
 いつも仕事の帰りに下りていく城の階段の途中で振り返り、白く聳え立つクォーツ城を見た。
 アメジスト王女を恨む事は出来ない。
 何故なら彼女もまた、自分が愛する人の為に生き、「世間体」という下らぬものの為に大切なものを犠牲にした、その一人だから。

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