第23章:お任せします

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  • 2278字

「モルガナイト姫…ですよね」
 大分ベリルに近付いて心に余裕が出てきた頃に尋ねた。前に座る姫が頷く。
「ブルーレースはシトリン以上に馬鹿だったわ…あの子も逃げられたのに」
 そうか、あのもう一人がオニキスの妹か。随分憂いた様な表情の人だったな。
「姫、これからあなたの生まれたベリル城に向かいますが、お伝えしておく事がございます」
 横座りの姫が僕の顔を見上げた。僕は前方に注意している振りをして、その顔を見ないようにする。
「実は…あなたのお父上は既に亡くなられています。お母様は、あなたが連れ去られてお気が狂ってしまわれ、今は僕の異父妹[いもうと]をあなただと信じて育てられています。国民にもあなたが連れ去られた事は秘密で、彼女が姫の役割全てを」
「…そう…」
「もしかしたらあなたの事をお母様は認識出来ないかもしれません」
 モルガナイトは首を振った。
「良いのよ…悪いのは『砂漠の薔薇』なんだから。私、その妹さんと仲良くなれると思うわ」

「うーん、何から話してもらおうかしら…」
 部屋でローズとシトリンは互いに向かい合ってソファに座っていたが、二人とも気まずそうに下を向いたまま黙っていた。ヒールの靴音を立てながら、シトリンの背後をパライバが考え事をしながら歩き回る。
「とりあえず奴等のアジトの場所だろ」
 上座に座るオニキスが言った。シトリンはキョトンとした目付きで尋ねる。
「アジトって?」
「あーそのー、お前が居た場所だ」
「王宮では住む場所の事アジトって言うんだーへー」
「ち、違うから気にしなくていいよ! この人の言葉遣い荒いから」
 ボクがフォローを出す。
「うーん、わかんないけど穴だよ」
「穴?」
「多分洞窟でしょうね。ベリルの東の山脈には崖が多いから、入り口が露出してるのもあるでしょう」
 と、パライバが推測する。
「それで、何で逃げて来たんだ?」
 オニキスの問いには再び下を向く。
「…下を向いてても、何も始まらないよ」
 ボクが声をかけると、シトリンはぽつりぽつりと話し始めた。
「私…クォーツ城に王冠とお母さん盗みに行ったんだ」
 ローズが何か言いかけたが、シトリンが話し終わってからにするようボクが遮る。
「盗んで…アジト? に戻ったら、私…神器使えないって知って…ジェダイドとお母さんが嘘つきって責められて…」
 大体の内容が把握出来たので、ボクはローズに念を押して発言を許した。
「ローズ、質問は一つずつね。こんがらがっちゃうから」
「んもう、ルチルは煩いわね。ショール先生みたい」
 ローズはやっとシトリンを見据えた。
「ええっと…シトリン?」
 双子の片割れに呼ばれて彼女も顔を上げる。
「えっと…さっき『お母さん盗みに行った』って仰ったけど、お母様生きてらっしゃるのね?」
「? ああ、うん、元気だったよ。地下牢に閉じ込められてたから、知らなかったんだね、えっと…ローズは」
 此処まででまた二人は下を向いてしまう。互いにそっくりな顔で呼び合うのに違和感があるらしい。
「結局母親って誰なんだ?」
 今度はオニキスが尋ねる。シトリンは彼を見て答える。
「何て言ったっけ…確かアメジストって名前だったと…」
 それを聴いたローズが突然わっと泣き出して部屋を飛び出した。
「ローズ!?」
 ボクが追い駆けると、彼女は廊下の隅で泣いていた。
「私…ルチルと双子だったらなって思ってたの…」
「ローズ…」
「かっこ良くて可愛くて、何でも出来る、自慢の妹でしたのに…」
 ボクは彼女の頭を、子供をあやすかの様にポンポンと叩き、そして彼女を抱き締めた。
「多分…従姉妹なんだろうね、顔似てるとは言われるし。でも、きょうだいじゃないからって、僕達の関係が変わる訳じゃないよ? きょうだいじゃないから仲良くしちゃ駄目な訳じゃないでしょ?」
 ボクの説得で少し落ち着いたのか、泣き止む頃にパライバがボク達を呼びに来た。
「こっちで大体事情聴いたわ。ジェダイドってのがローズ達の父親で、『砂漠の薔薇』の一味なんですって。結局、アメジスト王女が適合者だから彼女達の処分は後回しにされたんだけど、自分を逃がしたから両親の身が危ないかもって」
 そしてこう付け加える。
「もし向こうの親玉がキレてアメジスト王女を殺しちゃったら、またルチルが狙われる事になるわね」
 そんな事言われるとちょっと怖いじゃないかあ。
 ローズの顔を拭い、部屋に戻ると城のてっぺんで見張りをしていた筈のルビィが居た。
「あら私をお探し?」
 パライバが訊くとルビィは強く二回頷いた。
「サージェナイトが帰ってくるのが見えた」
「あらそう。ちょっと早いけど夕食の支度…」
「東から! しかも女の子連れてる!」
 ルビィがパライバの言葉を遮り言った。クォーツはベリルより西なのに…。
 パライバは顔色を変えて控えている使用人達に指示した。
「兄さんが帰ってきたらすぐにこの部屋に来る様に言って。レディの方はさっきシトリン姫を着替えさせた部屋へ、私のドレスをまた何着か準備しておいて。至急兵士を集めて城の周囲に配備、町でもパトロールさせて。指揮は…」
 此処で彼女が周りを見渡した。黒髪の青年の所でその視線が止まる。
「そろそろあなたにも良い所見せる機会、あげましょうか。オニキス・カルセドニーを臨時隊長に」
「偉そうに言ってくれるじゃねえか。命に代えてもお守りいたしますよ姫。…お前のこのこ前線に出てくんじゃねえぞ」
「解ってるわよ。鏡取られたら大変な事だし」
 形式的にオニキスがひざまずいてパライバに忠誠を誓うと、彼はすぐにマントを翻して自分の仕事をしに行った。その横顔が、少しだけ頼もしかった。

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