Cosmos and Chaos
Eyecatch

第18章:一月十八日

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  • 2359字

「ハッピーバースデー!」
 フェリックスがダイニングに下りるとまず、彼の母親がクラッカーを鳴らして長男の誕生日を祝った。テーブルには朝食とは思えない豪華な食事が用意されていて、アレックスは待ち切れずに既に肉料理に手を伸ばしていた。
「ありがとうママ」
 母親の頬にキスをして料理を楽しむ。いつもは寝坊気味の父も、匂いにつられたのかフラフラとやってきて「誕生日おめでとう」と言った。
「セーラ達からのプレゼントよ。どうせ今日は帰りが遅いんでしょ? 会えないだろうからって昨日置いて行ってくれたわ」
 母親が店の従業員達からの贈り物の包みを手渡す。両親からのもだ。礼を言って中身を確認すると、従業員達からは粋なジャケット、両親からは新しい鞄だった。
「ごちそうさま」
 一足先に食べ終えたアレックスが、立ち上がりざまに小さな箱を投げて寄越した。
「俺とボイスからー。今日は朝練良いや」
 フェリックスはこの箱をすぐには開かず、先に朝食を食べ切ってしまう事にした。
「開けないの?」
 欠伸をしながら父が尋ねる。フェリックスは逆に尋ね返した。
「開けるの? アレックスとボイスからなんて、絶対何か悪戯に決まってる」
 案の定、学校に行く前に恐る恐る裏庭で開けてみると、小さな爆発が起こってフェリックスの顔や服を煙だらけにした。三階の自分の部屋からその様子を見ていたアレックスが爆笑する。フェリックスはゲホゲホと咳をしながら、降ってくる塵の中からバースデーカードを見付けてキャッチした。カードを大切に鞄に仕舞い、制服をバタバタさせているとボイスが訪ねてきた。
「今日は早いじゃねーか」
 フェリックスは鞄を掴んで門を出る。
「気の利いたプレゼントありがとう」
 皮肉を言うとボイスが悪戯っぽくウィンクした。
「そろそろこの手にも飽きてきたから、今年はもっと凄いのを準備してるぜ」
 それを聞いてフェリックスはげんなりする。
「頼むからこれ以上の事はやらないでくれ」
「安心しろ。三十分後にはお前、跳んで喜んでる筈だから」
 三十分後、学校に着いて教室に入ると、信じられない光景が目に飛び込んできた。
「うわ何これ」
 黒板や天井が、魔法で作られた色とりどりの明かりで飾り付けられ、黒板には大きくフェリックスの誕生日を祝う文言が書かれていた。良く見ると、クラスメイト達からのメッセージも小さく添えられている。
「あ、もう来てたの」
 ニヤニヤするボイスの横で、フェリックスが黒板に書かれたメッセージを読んでいると、扉を開けてハンナとブルーナが入って来た。二人は魔法で大きめの紙箱を浮かせて運んでいた。
「授業が始まる前に片付けないといけないから、早く食べて」
 ブルーナが箱を、席替えで今は教団の真ん前のフェリックスの机に置いた。蓋を開けるとブルーナとハンナの手作りケーキが姿を現した。
「誕生日おめでとうフェリックス」
 ケーキを切り分け方で議論しているハンナとボイスの目を盗み、ブルーナとフェリックスはこっそりキスをした。

「ケーキがあるなら朝ご飯減らせば良かった…」
 午前中から胸焼けを起こしているフェリックスが言った。
「いや、だって、サプライズだし」
 ボイスがノートに落書きしながら答える。ボイスは残念な事にフェリックスの隣の席であった。それでも、ま正面のフェリックスよりかはマシかもしれない。
「メッセージ、皆に呼びかけたの?」
 小声でフェリックスが尋ねるとボイスが頷いた。
「書いてくれない奴もいたけどね。特に男子…はいすみません先生黙りますごめんなさい」
 今は授業中であった。教師がテキストを丸めて二人の頭を軽く叩くと、教室に笑いの渦が沸き起こった。今年の一月十八日は平和な日であった。

 ヴィクトーは例の如く、学校の屋上で寝転がっていた。冬の風は冷たかったが、今のヴィクトーには心地よい位だった。
「う…」
 また頭痛がする。元々頭痛持ちだが、最近日に日に痛みが酷くなっていた。
(嫌な予感がする…)
 ヴィクトーは恐ろしい考えを頭から振り払おうとした。昨日は国から手紙が届いて、ヴィクトーは9月から入出国管理官になる事がほぼ確定した事を伝えてきた。年末に受けた採用試験はちょろかったが、恐らく採用にはティムも一枚噛んでいるに違いない。
 そんな事を考えて気を紛らわせていると、階下へと通じる扉がキィ、と音を立てて開いた。アレックスが心配そうな顔付きで立っていた。何時の間にか昼休みになっていたらしい。
「先輩、入出国管理官への就職内定、おめでとうございます。ところで、どっか悪いの?」
 ヴィクトーは痛みを堪えて体を起こした。平気そうな顔をしたつもりだが、顔色でバレバレである事は、アレックスの表情が曇ったままなので判った。それでも頭痛が酷い事は、あまり知られたくなかったので、顔色が優れないのは別の事実の所為にしておく事にした。
「今日は俺の昔の家族の命日なんだよ。飯要らねー」
 一人で食べろよ、とアレックスを追い払うと、ヴィクトーは再び横になった。が、直ぐに思い直してアレックスを追い駆ける。
「アレックス!」
 階段の途中で追い付くと、ヴィクトーはアレックスの肩を掴んで振り向かせた。今やアレックスの顔色も真っ青だった。
「アレックス、聴いてくれ」
 アレックスは黙って頷いた。ヴィクトーは懇願した。
「俺はお前を傷付けるつもりは無い。ブルーナも、ティムもだ! これだけは憶えていてくれ。もし俺がお前等を傷つける様な事があれば…」
 ヴィクトーは唾を飲み込んだ。
「迷わず俺を殺せ。その方が身の為だ」
 アレックスはショックを受けた顔で暫く呆然としていたが、やがて仕方無さそうに頷いた。
「…俺、今日は帰るわ」
 ますます酷くなる頭痛に不安を覚えながら、ヴィクトーはアレックスを追い抜かして階段を下りて行った。