Cosmos and Chaos
Eyecatch

第32章:最後の…

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 最後の会議ではあまり話す事も無かった。アレックスは指示通りに報告をし、ブルーナは相変わらず憂鬱な顔をして、ヴィクトーがいつもと同じく昼食を振る舞った。
「九月三日」
 ティムが昼食を食べ終わると言った。
「私は、成人の儀には出席するが、その場では計画の事は言わない」
 三人はピリピリとした緊張の中、ティムの言葉を待った。いつもは直ぐに文句を垂れるヴィクトーも、突っ込みを入れるアレックスも、今日ばかりはティムの言う事を黙って聞いていた。
「少し城に居る協力者と手順を踏む。その後伝えた方が、民衆を扇動しやすいと私は考えた」
 ティムはその『手順』が一体どういった物なのか、全く語らなかった。アレックスは再び背筋が寒くなった。凄く凄く、嫌な予感がしていた。
 ティムはブルーナを慰め、アレックスやヴィクトーを労うと、少し早めに解散を言い渡した。
「おそらくこの四人で集まるのはこれが最後だ」
 三人は頷いた。
「アレックスとブルーナは、私が民を扇動したら、率先して北門へ誘導してくれ。勿論、何かの間違いで父上の軍隊が移民の制圧をしてきた時は、自分の安全を第一に考えて逃げてくれ。トンネルはなんとか完成させたからな」
 結局フェリックスを味方に付ける事が出来なかったので、トンネル工事はブルーナとティムが時々魔法で手伝い、どうにかした。ドロシーがコリンズ側からも掘っていてくれなければ、間に合わない所だった。
「ヴィクトーは他の北門の協力者達と一緒に、頼んだぞ」
 ヴィクトーが王子に向かって敬礼した。具体的な内容はアレックスとブルーナには伝えられていないが、入出国管理官の地位を得たヴィクトーが、学生である二人とは別に内密の任務や指示を与えられていてもおかしくは無かった。
「それではまた」
 ティムが真っ白な手の甲を上に向け、三人の前に差し出した。ヴィクトーが白くてほっそりした手をその上に重ね、その次にアレックス、そしてブルーナが手を乗せる。
「また、コリンズで会おう」

 新学期。ブルーナとフェリックスは、奇遇にも再び同じクラスだった。ハンナとボイスもだ。
「おっはよーブルーナ久し振り! 三年間一緒のクラスとか運命感じる~」
「おはようハンナ。そうだね…」
「ん?」
 ブルーナとフェリックスが妙によそよそしく、ブルーナに元気が無い事に気付いたハンナが尋ねる。
「フェリックスとどうかしたの?」
「うーん、別れた」
「えええ!?」
 クラス中の女子がブルーナを振り向いた。ハンナの大声ではなく、ブルーナが小さく言った『別れた』に反応して。
「な、なんでなんで?」
 何故かハンナの方が半泣きになっている。ブルーナは適当に誤魔化した。
「私、昔フェリックスの弟と付き合ってたの。ちょっとだけ二股かけてたみたいな時期があって、それがバレたのよ」

「ふぇりっくすきゅーん」
 ボイスがフェリックスの机に顎を乗せ、口を尖らせて言った。フェリックスの机はまたもや教室の一番後ろだった。
「夏の間ご無沙汰だと思ったら、ブルーナと別れて家でふて寝でもしてたのかよー」
 フェリックスが口をへの字にして机をガタガタやったのでボイスは下を噛み、「ギャッ」と言って立ち上がった。
「別れたけどふて寝はして無い!」
「そこ、怒る所と違うと思うよ」
 ボイスは勝手にフェリックスの前の席に座ると、語りかける。
「早いとこ謝ってヨリ戻せよ」
 フェリックスが女と別れる時は、大抵フェリックスの愛情が足りていないだとか、他の女に愛を振り撒いたとかで相手を怒らせるのが原因の事が多いので、ボイスは今回もそうだと思ってそう言った。
「俺は悪くないし」
 フェリックスは腕を組んでそっぽを向く。
「えーじゃあこのままで良いんだ。知ってるか? 今年もあいつ同じクラスなんだぜ。ほら、去年ブルーナの事好きで嫌がらせしてた天邪鬼君」
 流石にその言葉は堪えた。ボイスが示す先に、去年フェリックスを帰り道に襲ってきた男子が居て、ブルーナの方をじっと見ていた。
「…良くない」
 それを聞いてボイスはニヤッと笑った。
「まあ頑張れよ」
 そう言うとボイスはブルーナの方に…というか、一緒に居たハンナの方に歩き出し、ブルーナと話していたハンナを引き剥がして何処かへ消えた。
(あの二人は続いてるのか…)
 フェリックスは無意識に、ポケットの小瓶を触っていた。
(ティムの誕生日の次の日に、昼食に誘おう)
 そしてこの薬を使う。フェリックスはそう決心した。ティムの誕生日の翌日を選んだ理由は、特に無かった。ただ、普通の日に行うよりは、何かイベント事があった方がやり易い様な気がしただけであった。

 帰り道にティムが立っていた。
「一人で帰るのか」
「まあね。ハンナはボイスとデートだって言うし」
 ブルーナはまさか、ティムとまたウィリアムズ国内で会うとは思っていなかったので、少し驚いた。
「貴女には辛い思いをさせたな」
「皆の為だもの。しょうがないわ」
 言いながらも、ブルーナはティムが憎くて仕方無かった。もし、ティムの計画に巻き込まれずに、普通にフェリックスと出会っていたらどうなっていたのだろう。自分はフェリックスに近付こうとせず、今よりももっと疎遠だったかもしれないし、今もずっと愛し合っていたのかもしれない。
「…私に会いに来たんじゃないでしょう? ティム」
 後ろからフェリックスが近付いて来たので、ブルーナはその場を後にした。ティムは彼女の寂しげな後姿を見詰め、心の中で謝罪する。
(すまない、ブルーナ。これからもっと辛い思いをさせる事になる…)
 フェリックスは生成り色のマントの人物に気が付いたが、歩くスピードを緩める事無くその場を通り過ぎようとした。ただ、擦れ違いざまに、はっきりとこう言った。
「返事はノーだ。ティム」
 一瞬だけ、紅い目同士の視線がかちあった。フェリックスが立ち去った後、ティムは自分の拳を握り締めた。
(最後の手段を使うしかない)