第6章:シャイニーの伝説

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 キングダムガーデンは、ほんの少し前まで幾つかの国に分かれていた。どの国も歴史が古く、また、国同士の関係も良好で、戦争やその他の争い事というものとは長らく無縁であった。
 それは、伝説の戦士シャイニーが遺した三つの神器を、各国持ち回りで護り、末永く後世に伝えていくという一つの同じ使命を追っていたからだった。
 伝説の戦士シャイニーとは、数百年前、その勇気、頭脳、そして信頼で、この地に蔓延っていた盗賊を制圧し、乾燥した不毛地帯だったこの場所を豊かな、人の住める場所にした移民の頭だと伝えられている。現在のキングダムガーデンの国民は、殆どがシャイニーの仲間の子孫だ。
 神器は、宝剣、魔鏡、王冠の三つ。宝剣はシャイニーの勇気を、魔鏡は頭脳を、王冠は信頼を象徴している。
 それぞれの神器は単体では単なる飾りの役目しか果たさないが、三つを一箇所に集め、更にシャイニーの血を引く者三人がそれぞれにそれらを使えば、シャイニーの力を現世に呼び戻し、彼が為した様な奇跡を、たった一度だけ起こす事が出来ると言う。

「シャイニー本人の血を引く人間は多くないけど、とても見付けやすかったんだ」
 ボクとローズがサージェナイトの話を一字一句聞き逃さない様にしている間、オニキスは相変わらず窓の外を見ていた。
「他にも居るだろうけど、クォーツ王家、ベリル王家、カルセドニー王家はシャイニーの子供達の末裔さ。決定的な証拠とは見做されていないけど文献も残っているから、可能性はかなり高い」
 サージェナイトが一度言葉を切った。オニキスを見遣る。オニキスはちゃんと聴いていたのか
「続けろ」
と先を促した。言いにくそうにサージェナイトが再び語り出す。
「それで…十七年前、その三王国の姫が一人ずつ攫われた」
「その攫った奴等が『砂漠の薔薇』?」
「ああ、この地に蔓延ってた盗賊の末裔さ。偶然だけど、その時神器もその三国にあった。まあそれを狙っていたんだろうけどね、そっちは死守したんだ。でも姫はさらわれた。それが、」
 サージェナイトは一度言葉を切って、それから一語一語聞き取りやすいようにゆっくり、そしてはっきりと言った。
「クォーツ国のシトリン姫、ベリル国のモルガナイト姫、そしてカルセドニー国のブルーレース姫、と僕は聞いている」
「死んだって言われてた妹の名前何て言うの?」
 ボクはローズに尋ねた。しかし彼女は首を横に振る。
「生まれて直ぐに亡くなったから名前は付けなかったって聞いてるわ」
「各国の王族や権力者のごく一部しか知らない話さ。レーザー王は君達に余計な事を言って、辛い過去を背負った子供時代を過ごしてほしくなかったんだろう、だからごまかしたんだ。僕の情報元[ソース]はしっかりしてるから、これが真実と言う事にしておいてほしい」
「信じるわ」
 ローズが再び恋する乙女の声色で言う。その横でオニキスがふん、と鼻を鳴らした。
「まあ、もしかして、カルセドニーの御子息に放浪癖があるのは、姫を探しているから…?」
 今まさにその事に思い付いたのだけど、この考えを褒めて下さるかしら、とサージェナイトを見詰めるローズの瞳が語る。ボクもそろそろウンザリしてきて、二人の視線が交わり合う向こう側のオニキスを眺める事にした。
「まあ、そんな所かな…。ところでこの手紙と産着の事だけど」
 ローズの視線に気付いていない振りをすると、サージェナイトが再び真剣な語調で話を進めた。
「僕が見る限り産着は本物だけど、手紙はパライバが書いた物じゃない。実を言うとパライバとは知り合いなんだ。彼女は君達より年下で、生まれて直ぐにベリルの養女になって、事情でモルガナイトの振りをして生活している、それは正しい。けどこれは彼女の字じゃないし、彼女はクォーツ王族の血は引いていない。これも信用できるソースがある」
「そのソースって?」
「教えて良い?」
 ボクが尋ねるとサージェナイトはオニキスに意見を求めた。オニキスはうとうとしていたのか、細めていた目を開いて言った。
「駄目。お前ももうちょっと隠してたいんだろ?」
「情報屋としては自分の事はなるべく教えたくないね。という事でそれもまだ言えないんだけど、君達も良く知っている人だと言う事は言っておこう」
 後半はボクに向かって言った。
「さて、ここまで言えばこの手紙の差出人が解るだろう?」
 サージェナイトがナゾナゾを子供に出す様にボク達に言った。何だか、サージェナイトは全てを知っている様なのに、情報を小出しにされてちょっと焦れったい。
「つまり、パライバは王家の産着なんか持っている筈なくて、送ってこれるとしたら攫われた姫達だと」
「その通り。文面から言って、これは何も知らない君達をベリルにおびき寄せる為の罠だ。君達の性格も良く知っていたみたいだから、諜報員[スパイ]がクォーツの中に潜んで居そうだね。どうする? 引き返す?」
 ボクとローズは顔を見合わせた。ベリルに進むのは、罠だ。しかし敵は内部にも居る。戻っても何も出来ないし、危険な事に変わり無いかもしれない。
「貴方達はどうするの?」
「サージェで良いよルチルちゃん」
「さっきも思ったんだけどちゃん付けはちょっと…」
「じゃあルチル。そうだね、パライバが心配だし、このまま一旦ベリルに行くけど?」
 オニキスも頷く。
「俺達の目的は姫達と宝剣の奪還だ。『砂漠の薔薇』のアジトを見付け出して必ず。取り返したらさっさと何か良い事に奇跡の力は使っちまう。その為にキングダムガーデンは統一された」
 サージェナイトが持つ便箋をオニキスは指で弾いた。
「こんな手紙の事は何一つ信じなくて良い。あんたらの国は『信頼』を頭に被ってるんだ。レーザー王を信じろ」

『創呪擦罪 骨肉相噛』がアマプラで聴ける事ご存知でした?
私は知りませんでした。