第6章:Mercenary Meets Mercenaries

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  • 3212字


 その日も暑かった。ドランクは追い詰めた相手の背中に、魔法で生成した巨大な氷の塊を勢い良くぶつける。
 人間の体が潰れる嫌な音。同時に動物の鳴き声のような断末魔。
 マントを脱ぎ、ベストも前をはだけているのにまだ汗が顔から滴ってくる。顎にわだかまっていた雫を手の甲で拭いながら、ドランクは今しがた仕留めた賞金首へと近付いた。
「……参ったな……」
 こんな山奥まで逃げ込まれては、依頼主の所まで死体を運んでいくのも一苦労だ。いつもならスツルム殿が首を落として、証拠としてそれだけを持って行くのだが、彼女は例の如くバルツに帰っている。
 魔法で氷の剣を生成してみた。しかし、この暑さではとても刃の鋭さを維持できない。だから今回は、巨塊で圧し潰すという、あまり綺麗じゃない方法になったのだった。
 腰の小刀を見遣る。これじゃ、首を落とすのに何時間かかるやら。
 途方に暮れていると、複数人の気配が近付いてきた。
「先を越されたか」
 先頭を歩いていた二十歳くらいの赤髪の青年が、忌々しそうにドランクを見た。後ろに二人、仲間なのか子分なのかは知らないが従えている。
「どうします? 代わりに彼を……」
 その後ろにぴったりとくっついて歩いていた少年が、何かを赤毛に耳打ちする。
 ドランクは警戒しつつも、折角の成果をみすみす置いて行くわけにもいかない。宝珠を構えたまま、三人の動向を見守った。
「……ジャスティン、もうちょっと見る目を養え」
 赤毛は少年の話を一通り聞いた後、そう言ってドランクに近付いてきた。
「こいつは俺達三人がかりでも敵わない相手だ。そうだろ?」
 赤毛は賞金首の死体を挟んで、ドランクの反対側に立つ。連れの傷だらけの顔の男が、意を得たりといった風に呟いた。
「なるほど? 賞金首になるような奴を、独りで追い詰めて殺せるだけの腕はあるという事か」
「頭が回るなバレンティン。後でご褒美をやろう」
「んふっ……今くれても良いんだぞ」
 ドランクが黙って様子を窺っていると、赤毛はバレンティンと呼ばれた男を一瞥しただけで、肩に提げていたギターから剣を取り出した。
「それに、こういうのは早い者勝ちだからな。恨みっこなしだ」
 殺意の無いままそれを振り上げ、真っ直ぐに賞金首へと振り下ろす。綺麗に上下に分離した。少年は楽しそうに、そして傷の男は羨ましそうにその動きを見ていた。赤毛は剣を上げて、首を傾げているドランクを見る。
「刃物が無くて困ってたんだろ?」
「随分親切だねえ。君達も、彼を狙っていた傭兵さん達でしょ?」
「鳴かないネズミに興味は無い。今度のGIGには別の奴を使うさ」
 赤毛は剣を振って血を落とすと、楽器の中に仕舞う。
「GIG?」
 そのまま二人を連れて去ろうとする背中に、思わず聞き返してしまう。
「……二週間後、すぐそこの遺跡でショーを行う」
「二週間後は厳しいなあ」
 その遺跡にはこの後寄る予定だったが、一週間後にスツルムと次の仕事の予定がある。二週間後にはもうこの島には居ない。
「僕、こう見えて結構売れっ子でね」
「だろうな」
 行くぞ、と今度こそ赤毛は二人の背中を突っつく。
「光の下で名を上げるか、闇の中で声を上げるか……。前者の道を行ける奴は、そうしていれば良い」
「ああ、ベンジャミン……そんな優しく突くんじゃなくもっと……!」
 傷だらけの顔の男が熱っぽく言った。
「本当に気持ち悪いですね、この豚は」
 ベンジャミン、と呼ばれた赤毛ではなく、ジャスティンと呼ばれた少年の方が彼の尻を思い切り蹴飛ばす。悦びと、まだ足りないという不満の混ざった声が上がった。
「いっそ俺を処刑してくれても良いんだぞ……?」
「どうして僕達が、わざわざ豚が悦ぶ様な事をしてあげないといけないんです?」
「褒美をくれるんじゃなかったのか?」
「ガタガタ五月蝿いぞ、グズ共が。さっさと次のネズミを見つけるぞ」
 言動に棘はあるが、三人の関係は悪くないらしい。ドランクは去っていく彼等の様子を眺め、見えなくなったところでフッと笑った。
 何やら物騒な単語も聞こえてきたが、仲の良さそうなトリオじゃないか。


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