第14章:安心する人

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  • 2541字

 目覚めたローズに、城から持ち出してきた華美ではないドレスを着せ付けながらボクは考えていた。
 ボクが嫡子だとして…何も事件が起こらず普通に嫡子として育てられていたらどうなっていたんだろう。女の子らしく髪を伸ばし、こうやって小間使いに手伝われながらひらひらとした洋服に身を包んで、手を振る民衆達に窓から笑顔で手を振ったりしたのだろうか。ちょっと想像が付かない。
「どうかしたのルチル?」
 長年の付き合いでボクの様子がおかしいと感じたのか、ローズが言った。言うべきか言わざるべきか悩み、結局言う事にする。
「さっき書庫で歴史の本調べてたんだけど…ローズ、アメジスト王女って知ってる?」
「だあれその方」
「やっぱり知らないよね…」
 そしてその名前がレーザー王の妹君として本に書いてあった事を伝える。
「お父様にきょうだいがいらっしゃった事自体初耳よ」
「だよね。僕達が小さい時にはもう居なかったのかな」
 ローズがその本を見たいというので、着替え終わった彼女を連れて書庫へ向かう途中、帰ってきたサージェナイト達に会った。
「サージェ!」
 ボクは彼の顔を見てホッとする気持ちになる自分に気が付いた。得体の知れない真実を突きつけられて不安だった心が、少ししゃきっとした気がする。
「これから書庫へ?」
「うん。歴史の本に…」
 サージェ達三人も加わり、一行五人で例の本を読む。サージェがこの本の内容は一般的に市民に知られている内容と合っている事を教えてくれた。
「やっぱりボク達だけに隠されているんだね…」
「そうでもないよ」
 ボクの代わりに本を棚に戻しながら、サージェが言う。
「多分まだ嘘が」
 ボクの顔が余程不安そうだったのか、振り返るとサージェはボクの頭をまるで子供をあやすように撫でた。恥ずかしいけど、効果はてきめんで、すっと心が軽くなる。
 次にサージェはローズを振り返る。彼女は最初にボクがこの本を読んだ時と同じ様にショックを受けていた。
「なんですのこれ…これではルチルの方が嫡子で私が庶子という事ですわ…」
 その言葉にボク以外の三人が彼女を見る。
「どういう事だ?」
「ボクとルチル、一人の女の人が産むには誕生日が近すぎるんだ」
 オニキスの問いにはボクが答えた。
「じゃあ私の母親は一体誰ですの…?」
 今にも泣きそうなローズに、オニキスが珍しく慌てて慰めを言った。
「まだルチルがなんだ…その…ルチル王妃の子供だってはっきりした訳じゃないだろ…」
「いずれにせよ、どちらかの母親が誰だか判らない問題は解決しないけどねー」
 ルビィが口を挟む。確かにそうだけど…。
「もう一つ解らない事があるんだ。ボク達はこの『アメジスト王女』って人の事全然知らない。存在も今知った」
「アメジスト王女は本にも書いてあった通りレーザー王の妹君で、シトリン王女が誘拐された時にルチル王妃と一緒に殺されたって事になってるよ」
「『事になってる』?」
 ボクがオウム返しするとサージェが口の両端を吊り上げた。
「だからまだ嘘があるんだよ…」
 と、此処で書庫の扉がノックも無しに開かれた。
「部屋に居ないと思ったらこーんな所にお揃いで」
 パライバだった。夕食に呼びに来たらしい。指にはサージェが贈ったサファイアの指輪が光っていた。

「ふーん…なるほどねー」
 夕食後。ボクとローズはパライバに誘われ、三人で湯殿していた。パライバ曰く、湯殿は人払いもできるし格好のひそひそ話場らしい。
 ベリル城の広大な浴場の湯船に浸かりながら、ボクは今日得た情報について彼女に語っていた。
「ルチルが嫡子だとする。とするとローズは嫡子ではない。けどローズの方が嫡子とされている。し、ルチルは何故か世間にその存在を隠している…と…」
 パライバがブツブツ言いながら頭の中で考えをまとめ始めた。
「誘拐事件があったんだし、ルチルの存在を隠そうとする親心は解らんでもない…けど、シャイニーの伝説を実行したいだけなら、次は姫じゃなくて王冠だけ狙いに来ると思うんだけど。ルチル隠す意味ってあるの?」
「うーん、言われてみれば確かに…」
「そういえば誘拐されたのって姫ばっかりよね。オニキスのとこなんか、『砂漠の薔薇』が来た時、オニキスの方は普通に庭で付き人も少なく遊んでたらしいのに、わざわざ城の奥で寝てたブルーレースの方を周りの使用人やら護衛やら殺しまくって連れ去ったらしいわよ?」
 歯に衣着せぬ物言いのパライバにボクはちょっと引く。カルセドニーの方では結構人が死んだのか…多分、クォーツの方も聞かされてないだけでかなり亡くなったんだろうな。
「ちょっと待って」
 湯船に鼻の上まで浸かり、息を吐いてぷくぷくさせて遊んでいたローズが出てきて言う。
「『オニキスのとこ』? やっぱりオニキスがカルセドニーの子息だったのね!?」
 薄々感づいてはいたらしいが、やっとはっきりしてすっきり…ではなく何故かローズは立ち上がって怒る。
「あー! あんなブアイソーな方が私の婚約者[フィアンセ]ですって。なんとしてでもしませんわよオニキスと結婚なんか!」
 と、別の目標に燃え始める。ローズの事はスルーして、ボクはパライバとの会話に戻った。
「つまり、『砂漠の薔薇』が必要としているのは女の子?」
「みたいよねー。もしかしたら、シャイニーの神器は女しか使えないみたいな制限があるのかも。ほら、シャイニーって女の人だし」
 ほら、と言われてもシャイニーの事も隠され続けてきたボクには初耳だけど。
「あ」
 湯殿を終え、服を着ようとした時に気が付いた。下着を一つ部屋に置き忘れてきたようだ。
「ちょっと取ってくる…っていうか先帰って着替える」
「ええ!? 下着付けないで行くの?」
「シャツ着るし下着付けてないなんて判んないよー」
 ローズが自分が服を着替えたら取りに行ってくれると言ってくれたが、部屋まで結構遠いし申し訳無いので断った。召使に頼むのも、ボクはローズと違って着替えとか手伝ってもらわないからちょっと恥ずかしいし…。下着無しでシャツとジャケットを羽織り、荷物を持って廊下を急ぐ。
 部屋に着くとボクはトランクを開け、下着を探す。探し当てたのを身に付ける為にシャツを脱ぎ、その下着を着た直後の事だった。
 ノックも無しに部屋の扉が開いた。

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