Cosmos and Chaos
Eyecatch

第21章:ポイゾナフラー

  • G
  • 2650字

「ラザフォードは兄弟を探していたようです」
 歌い終わり、恐怖に慄きながらティムが言った。
「物を盗むというよりも、壊して回っていた…」
 国王も厳しい顔をして尋ねた。
「お前はこの歌が本当にただの歌だと思うか?」
「いいえ」
 ティムは自分でも口に出すのが恐ろしい答えを出した。
「この歌は、催眠術をかける魔法になっている」
「その通りだ」
 国王は机に肘を付いて指を組み、ティムに語って聞かせた。
「ラザフォードの恐ろしい所はこれだ。この催眠術を使って仲間や敵を錯乱させ、操り、目的を果たす。ラザフォード一族が全て合わせても何百人という桁の勢力でない事は確かだが、そうでなければコリンズの国民の半分を一夜にして殺せる筈が無い」
 ティムも頷く。ドロシーの記憶の中で、コリンズの民達は互いに刃物を向け合い、隣人の家に火を放っていた。低く響くラザフォードの歌を背景に。
「この国には、ヴィクトー・ラザフォードが居る」
 黙ったまま考え込んでいる国王に、ティムは恐怖を我慢出来ずに言った。
「ラザフォードが復讐に来る!」
「まったく、盗み聞きは犯罪だぞティム」
 王が安心させようと茶目っ気たっぷりに言ったが、あまり効果は無かった。
「定住資格を与える審査の様子を聞いていたんだな?」
 ティムは答えなかったが、彼がその特異な能力を使ってヴィクトーと王との面会の様子を自分の部屋から聞いていたのは事実だ。そこで彼に目を付けたティムは、六年経った今、彼を味方に引き込んだのだから。
「まあ、ラザフォードがヴィクトーがこの国に居る事を知っているにしろ知っていないにしろ、コリンズが襲われたとなれば此処もいつ襲撃されてもおかしくない。催眠術を使うあたり対策がしにくくて非常に厄介だが、出来るだけの事はせんとな」
 王はそれ以上話す事が無い様なので、ティムは執務室を辞した。扉の前で待っていた爺と共に自室へと戻る。
「明日、少し外出する」
 爺に言うと、爺は少しだけティムの方を見て、「了解しました。お気を付けて」と言った。計画に関する事で外出する事は言わずとも承知だ。他に理由が見当たらない。
「それから、フェリックスに手紙は届けただろうか?」
 部屋の入り口で別れ際にティムが尋ねた。爺はにっこりとして頷く。
「勿論。今日の昼頃には彼の自宅に届けられました。プレゼントの包みも一緒にです」
「そうか」
 ティムは部屋の扉を閉めた。扉に寄りかかり、長く息を吐く。自分がとんでもない事をしようとしている事は解っている。しかし、どうしても予防線を張らずには居られなかった。
(私はフェリックスが欲しい)
 彼の天才的な魔法の技術、冷静で明晰な頭脳、そして、きっと女性であれば傾国と言われるであろう美貌。どれもティムにとっては脅威的だ。
 フェリックスがこの計画の事を知った時、彼はティムの味方になるか、敵になるかのどちらかだ。ブルーナやアレックスも一枚噛んでいるし、彼の性格からして我関せずと傍観する事は無いだろう。絶対に敵には回したくなかったが、何となく、フェリックスはこの計画に手放しで賛成しないような予感がしていた。
(この手段は、最後まで使わずにおきたいものだが…)
 爺の報告があったにもかかわらず、ティムはどうしても気掛かりで、水晶玉を覗き込んでフェリックスの今の様子を確認した。

 フェリックスが酔っぱらって家に帰って来たのは、日付が変わりそうな時刻だった。
「フェリックス、酒は成人してからにしなさい。まだあと一年あるだろう?」
 起き出して来た父親が裏口で動けなくなったフェリックスをキッチンまで連れて行き、水を飲ませた。
「ごめーん」
 これまでも度々ボイスに連れられて、違法にも子供に酒を振る舞うパブなどへ行った事があった。いつもは加減するのであまり酔わないのだが、自分よりもブルーナの方が酒に強い事に気が付かず、同じ調子で飲んでいたらこうなった。
「明日が休みで良かったね」
 フェリックスは頷いた。フェリックスは父親に叱られた記憶が無かった。母親はしょっちゅう子供達に小言を言ったりしたが、父は正反対で、あまりとやかく口を出したりしない人間だった。子供が間違った道に進もうとした時、注意したり、助言したりはするものの、決して感情任せに怒鳴りつけたり、自分の思い通りにしようとしたりはしなかった。ボイスの頑固親父とは正反対のこの父が、フェリックスもアレックスも好きだった。
 叱ってくれない事が、時々寂しくもあったけれど。
「そうだ、王子様から手紙とプレゼントが来てるよ」
 父親は水の無くなったコップをフェリックスの手から取ると流しに置いた。それから間続きの居間へ行き、帰ってくると封筒と平たい包みを持っていた。
「ありがとう」
 少し酔いが醒めたフェリックスは、それらを受け取ると「おやすみ」と言って自分の部屋へと戻った。風呂に入るとまた昏倒しそうなので明日の朝入る事にして、パジャマに着替えるとベッドに仰向けに寝転んでティムからの手紙を読む。
 初めは何が書いてあるのか良く解らなかった。酔っぱらっているから、見間違えたのだろうと思った。
 しかし、もう一度読んでみても、読み取れた内容は先程と変わらない。フェリックスは一気に酔いが醒めた気がした。ガバッと腹筋を使って起き上がると、机に置いたプレゼントの方へ手を伸ばす。

もう一人の私、フェリックスへ
 誕生日おめでとう。私とまた同い年になったな。
 プレゼントは以前から貴方が興味を持っていたポイゾナフラーの種だ。たまたま入手出来たので、少し分けてやろう。
 勿論、これは法律で種子の譲渡や売買が制限されている植物だから、栽培には十分気を遣って欲しい。
 忙しくて短い手紙ですまないが、此処で終わろうと思う。貴方からの手紙を心待ちにしている。
ティム

「ポイゾナフラー…」
 思わずその名を口にしたが、声が掠れて自分でも殆ど聞こえなかった。
 ポイゾナフラーの花は万能に効くとされる薬の材料だが、その種子には毒があり、国に管理されている為一般人はなかなか手に入れられない代物だ。フェリックスは、以前からこの植物について色々と調べたり、花から自分で薬を調合してみたかったのだが、上述の理由で今までその願いが叶う事は無かった。
(王子の権力は凄いな…)
 フェリックスは包みをそっと開けた。中には九つ、小指の爪くらいの大きさの茶色くて丸い種が入っていた。手に取ってランプの明かりに照らしてみる。確かに、図鑑で見たポイゾナフラーの種と同じ物であった。