第17章:偽者

  • PG12
  • 2335字

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初登場ドランクが理想の最強ミステリアスお兄さんムーブしてたり。
霧の島の話までは入っています。


 皆に見送られ、一人「迷いの森」を歩いていると、背後から人の気配を感じた。
 おかしい。「迷いの森」では決して旅人同士が出会う事はないのにどうして。獣か何かを勘違いしているだけなら良いが…。
 付けられているかもしれない。その考えが頭から離れない。
 そして嫌な予感は的中した。
 ついに誰かが茂みから飛び出してきて、僕の背後から首に腕を回した。剣を抜くのが少し遅れた僕は捕まってしまい、喉にナイフを突き付けられた格好になる。
「あなた…」
 横目で後ろの人物の顔を見ながら驚く。
「シトリン姫を攫った…」
「そうだ」
 水色の目の男が肯定した。何故だ、あれからもう十七年も経つのに、彼は未だに僕と同じ位の歳に見えた。
「言っときますけど僕は魔鏡を使えませんでしたよ」
「貴様本人に用は無い。だが、適合者の条件を、貴様なら知っているかと思った」
「知りませんよ」
 鼓動が速まる。何事にも動じない様に訓練していたつもりだったが、流石に首筋に当てられた短剣の冷たさには背筋が凍った。
「今からそれを調べる為に戻るんですから」
「そうか、ならば判ったら教えろ」
「盗賊に? 御冗談を」
「教えてくれれば、用が済んだら姫達は無事に帰すつもりなのだがな」
 つまり教えなければ用無しになった時点で殺してしまうかもしれないという事か…。
「私達には適合者と神器が必要なのだ」
「その様子じゃ、三人のうち少なくとも一人には宝剣が反応しなかったと?」
 かまをかけてみるが、流石に相手もその手には乗らない。
「余計な口をきくなら、今ベリル城に控えている貴様の妹達を連れ去る事も出来るんだぞ」
 やはり居場所は知られていたのか。パライバ達にこの事を知らせたいと思ったが、この男の言う通りにするのが、一番安全な道だろうか。
「それじゃあ…僕が情報を得たら教えましょう。但し、此方も条件付きです。あなたが『迷いの森』をどうやって突破しているのか、教えてください」
「良いだろう。では、また会おう」
 ふっと首を絞めていた腕が緩んだかと思うと、次の瞬間には既に彼は姿を消していた。
「…まさか幽霊とかじゃ、無いよね?」
 命懸けの賭けに成功し、ホッと安堵する。条件を受け入れてもらえるとは思わなかった。少しでも相手の情報が探れれば…。
 いや、と首を振る。とにもかくにも、早く戻らなければ。

 王宮の廊下を歩く人影に気付き、声をかけた。
「ローズ様…?」
 お日様色のドレスを着た少女が振り返る。行方不明になっていたローズ王女が、一人で歩いていた。
「何処に行ってらっしゃったんですか! 皆心配してたんですよ! ルチレーテッドは?」
「後で話すわ。お父様に会いたいの」
「勿論ですとも」
 私は教え子の手を引っ張り、王が控える間へ連れて行く。ローズの姿を見ると、クォーツ王が立ち上がった。
「ローズ! 今まで何処に!?」
「お父様こそ! 私、お父様の子供じゃないんでしょう? お母様に会わせて」
 その言葉に私と王は凍り付いた。何処でその事を知ったのだろう。
 そこに使用人が私に言伝[ことづて]を持ってきた。
「トルマリン先生、御子息様がお見えです。出来れば王にも謁見したいと」
「すまないが何処かで待たせてやってくれ。私は王女と少し用事が」
 言って王はローズを連れて部屋を出て行った。母親に…アメジスト王女に会わせるつもりか。
 私はアメジストに会いたくなかったので、サージェナイトが待っている部屋に向かった。
「母さん」
 応接間のソファに息子は落ち着かなさそうに座っていた。私も向かいに腰を下ろす。
「今まで何処に居たの?」
 私の問いにサージェナイトはお茶を濁す。
「…まあ、良いわ。無事に帰って来てくれたし、ローズ様も」
「母さん今何て!?」
 サージェナイトが鋭い口調で聞き返す。
「ローズが帰って来た!?」
 声を裏返す程大きな声を出す、サージェナイトらしからぬ様子に私は焦る。どうしてそんなに驚くのか尋ねる前にサージェナイトは続けた。
「そんな筈無いよ! 午前中まで彼女はベリル城に居たんだ、僕やオニキスやルチル達と一緒に。僕は『迷いの森』を抜けて来たから僕より早くこっちに着く筈無い!」
 そして立ち上がると控えていた使用人や護衛達に怒鳴った。
「ローズ王女の偽者が城に侵入した! 早急に部隊を配備! 犯人はなるべく傷付けずに拘束する様に!」
 私はソファに座り直して溜め息を吐いた。
「あなたの近衛隊長らしい姿、久し振りに見たわ」
 近衛隊は王族が城の外に出る際に臨時で警察隊の兵士を集めて構成される。サージェナイトは士官学校を良い成績で卒業したので、新人としては異例の選任だが、一応、近衛隊が編成された時は指揮を取る権限を持っていた。勿論必要に応じて近衛隊を召集する事も出来る。
「普段は仕事サボってほっつき回ってばかりなのに…」
 その所為か同僚の警察官達にもあまり顔を覚えてもらっていないらしい。
「母さんも呑気な事言ってないで。偽物、ローズにそっくりなの?」
 剣を抜いて廊下に出るサージェナイトについて私も部屋を出る。
「そっくりも何も、私や国王が見間違えるくらいですよ」
 いつから王女の事を呼び捨てにする仲になったのだろうかと思いながら、国王と偽物は地下牢に向かった事を伝える。
「僕が地下に向かう! 他の者は、他にも敵が侵入しているかもしれない、各自持ち場周辺を警戒するように!」
 サージェナイトはそう指示すると地下へと急ぐ。私は走って追い駆けるので大変だった。
「そこまでそっくりとなると…シトリン姫しか考えられないな…」
「何を言ってるの。シトリン様は攫われて人質になっているのよ」
 私がサージェを諌めると、彼は苦笑した。
「どうやら不要な姫様が出てきたらしいんだ。詳しい事情は後で話すよ」

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