Cosmos and Chaos
Eyecatch

第20章:盗賊の歌

  • G
  • 2467字

 ティムは自分の部屋で泣いていた。
「どうしてお泣きになっているのですかな、殿下」
 相変わらず明かりの乏しい部屋に入って来た爺が尋ねる。ティムは涙を拭うと、素直に答えた。
「恐ろしいものなのだな」
「何がです?」
「独りというものは…」
 ティムは不自由ではあったが、孤独ではなかった。両親もまだ健在であるし、常にお目付役やらメイドやら護衛やらがすぐ傍に居た。何でも相談する事が出来る、会った事は無いが心の通じる友人も居た。
 だがどうだろう。以前、うっかり素手でブルーナの口を塞いでしまった時、ティムは母親が早くに死に、父親が仕事で家に居ない家庭の様子を垣間見た。ドロシーに至っては家族どころか国民の半数を失った。そして、自分が城に戻ってきた時、抱き付いてきた母親の心配する親心を知った。皆、寂しさや失う事をとても恐れていた。
「お分かりになって頂けて爺は嬉しゅうございます。爺も伴侶が亡くなってからは家に帰ると誰も居りませんので、王子が居らっしゃらない間どれだけ寂しい思いをしたか、ご想像が出来ますでしょうか?」
「そうだな、すまない…」
「反省して頂けたなら爺は大いに満足です。今後はこの様な事はなさらぬように。次はこの爺の首が飛ばされてもおかしくはありませんぞ」
 爺が凄んだので、ティムはもう一度「すまない」と謝った。
「ところで、国王様がお仕事の手がお空きになったそうなので、殿下と面会したいとおっしゃられております」
「父上が…わかった。着替えて直ぐ行く」
 母とは違い、王である父は公務が忙しく、ティムが帰ってからも食事の席で少しだけ顔を見ただけで、しっかりと話をする時間が取れなかった。何がそんなに忙しいのかと気になってはいたが、ティムからも伝えるべき事があったので、頭の中を整理しながら服を着替えると、謁見の間へと向かった。
「殿下、違います。王は執務室にいらっしゃいます」
「え?」
 謁見の間に移動する暇も無いのだろうか。爺に連れられて執務室に向かう。日が暮れた後の城内は、照明が煌々と照らしているものの、人影が少なく何処か恐ろしい感じがした。冬の寒さの所為だろうか。
「国王陛下、ティモシー殿下が御見えです」
 爺が執務室の扉を叩くと、中からティムだけ入室するようにとの指示があった。従ってティムだけが扉を潜る。大量の書類に埋もれる様にして、大きな机の向こうにティムの父、ウィリアムズ王が座っていた。国王だからさぞ豪勢な服を着ているのかと思いきや、今は室内で地味に事務仕事をしているだけなので、パッと見だとそこら辺の中流家庭の父親と大差ない見た目だった。
「おうティム。久し振り」
 王はよっ、と片手を上げて挨拶すると、ティムに部屋にあった椅子を適当に勧めた。なんだか足がガタガタしていたが、他の椅子を当たってみるのも面倒なのでティムはその椅子に腰掛けると小さく溜め息を吐いた。
(王がする挨拶ではないな…)
 王はせかせかと書類に何か書き込む仕事を止めると、ティムに向き直ってその顔を見詰めた。茶色いその顔には悪意の無い笑みが常に貼り付いている。
「で、何処に行ってたの?」
 この問いには黙秘した。父の問いに答えるつもりは無かったし、会話の中で明らかになるだろうからわざわざ答えるのが面倒だった。王は気にせず続ける。
「私から言う事は特に無いんだけど、ティムからはあるんじゃないかと思って。それによっては何か言うかもしれないね」
 ティムは本日二回目の溜息を吐いた。この人はいつもこうだ。事ある毎に呼び出すが、自分からは何も言わない。ティムも普段は会話をする気など無いから、面会は持って5分で終了。しかし、今回はティムの方から言う事があった。
「父上、コリンズ国へもっと物資を送ってやらねば、あそこの国民が凍死してしまいます」
「ふーん、コリンズに行ってたのか。ちょっと予想外」
 言いながら国王は書類をごそごそと漁りだし、暫くして一枚の紙を見付けると、何事か書き込み始めた。
「具体的に何が必要なの?」
「防寒具と燃料。各家庭に一セット以上配りたい」
「おっけー」
 国王は輸送させる物資とその数を記入すると判を押した。議会も通さずに勝手に決めて大丈夫なのか、と思う所だが、コリンズの人口の百倍もあるウィリアムズ国である。布団の千枚くらい、無償で援助しても国民から反感を買う事は無いだろう。
「それから」
 国王が「まだ何か送るの?」と言ったが、ティムは首を横に振った。緊張して口の中が渇く。国王もティムの真剣さに気付いて真面目な顔をした。
「コリンズを襲った賊は、ラザフォード一族だった」
「ふむ」
 国王がらしからぬ真剣な目付きでティムを見る。ティムも紅い瞳で国王を見詰め返した。国王が何も言わないので、ティムが続ける。
「それから…襲う時に、歌を歌うという伝説は、本当だった」
「それはコリンズ国の誰から聞いたのかい?」
 ティムは首を振る。
「コリンズ女王に誤って触れた時に…」
 ここで国王が少しだけいつもの調子に戻る。
「マタァ~。やらしい事したんじゃないでしょうね~」
「父上、真面目な話だ。その歌の内容も女王は憶えていた」
 女王の思い出の品を奪おうとして喧嘩になった、とも言えず、ティムは核心に迫る事で国王の興味を逸らした。国王も再び真面目な顔に戻る。
「そうだな。ラザフォードは誰かを襲う時、必ず歌を歌う事で知られている。何の為に盗るのか、何を盗るのか、等を歌うそうだな。そうだったのか?」
 ティムは頷いた。国王が机の向こうから身を乗り出す。
「何と言っていた?」
 ティムは最早カラカラになった喉を無理矢理唾で湿らせ、覚えている限りの歌詞を歌い始めた。

昔々、我等は追い出された
黒い奴隷に、追い出された
六年前、再び奴隷が
我等一族を追いやった
地上の楽園から追いやった
追いやったのは、黒い奴隷と
ビックリ人間の、集団だ
そいつらを呼び寄せたのは
ネスターと盗品の女
裏切り者は死んだが
その血を引く者はまだ生きている
ヴィクトーとエドガーはまだ生きている
裏切り者を、地獄へ落とせ
我等が国を、奪い返せ