第19章:自分勝手

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  • 1198字

「おっうかーん、おっうかーんうーれしーいなーっと」
 シトリンは彼女の母親に短い髪を梳いてもらいながら、自身で奪い取ってきた王冠で遊んでいた。しかし、その神器に光は宿らない。
 私は例の如く定位置で本を読んでいた。洞窟の部屋の隅にはメイド服から着替えたばっかりのアイ、ターコイズ、そしてその傍に控えるブルーレース。
「また会えるとは思わなかったわターコイズ」
 十七年振りの親子の触れ合いにしみじみしていた、シトリンの母親がターコイズに振り向いた。
「それにしてもあなた老けないわね」
 ターコイズの表情はいつもと変わらず、その思考は読めない。
「…ジェダイドは?」
 母親がややあって尋ねた。ジェダイドは仏頂面の中年の仲間で、いつもは洞窟の入り口で見張りをしている事が多いが、今日はどうしたんだろうか。
「あなたの姿を見たくないって」
 これにはアイが答える。
「…そう…」
 母親が悲しそうにしたが、感傷に浸る間も与えずターコイズが言う。
「あなたが娘は神器を使えると言ったからシトリンを連れてきたのに、それは嘘だったのか?」
 え、と母親が固まった。シトリンもターコイズに聞き返す。
「りんちゃん…王冠使えないの?」
 「私」とは言いたくなかったのだろうか。普段私達を「もるちゃん」「ぶるちゃん」と呼ぶ時にふざけて自分を「りんちゃん」と言う事があるが、第三者の様にして尋ねたかったのか。
「そっそんな事無い筈よ! 私はれっきとした王女ですもの!」
 シトリンを抱き寄せて母親が立ち上がった。ターコイズは持っていたボウガンを構えようとしている。嘘つき王女を始末しようって訳か。
「シトリンには神器が反応しない。適合者であるレーザー王の子供の身代わりにこいつを差し出したんだろう?」
「違うわ! …私は使える筈よ!」
 母親はシトリンが握っていた王冠を奪い取る。途端にそれが光り出した。
「ほら! 悪いのはジェダイドの血よ、信じてターコイズ!」
 矢を向けられてパニックになっているのか、半狂乱で叫ぶ。母親は適合者らしいので、ターコイズも渋々弓を下ろした。
「ならば最初からお前が来れば良かったのだ。お前が王宮での豪勢な生活を捨てさえすればこんな面倒をかけずに済んだのに」
 一先ずホッとする母親の腕の中で、シトリンの方は真っ青になっている。当たり前か、彼女は不適合者で、もう「砂漠の薔薇」にとっては用無しなんだから。
 と、冷静に状況を眺めている自分も薄情だと思うけど。
「…ジェダイド!」
 シトリンが叫んだ。皆が振り返ると、部屋の入り口に彼が佇んでいた。今度は母親も真っ青になる。
「悪かったな。俺なんかとの子供じゃなければ使えたかもしれないのに」
「ジェダイドぉ!」
 シトリンは自分勝手な母親の腕を振り解き、十七年間そうだと気付かなかった父親の胸に飛び込む。
「…貴様等の処分は伝説の実行後に考える。アメジストが王冠を使えるなら、あとは魔鏡だけだ」

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