第2章:いずれにせよ

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  • 2441字

親愛なる我が姉、ローズ
 貴女がこの手紙を読んで驚くのは無理の無い事でしょう。何故なら、貴女は十七年間、妹…つまりは私、パライバは生まれて直ぐに死んだと聞かされていたのでしょうから。
 しかしそれはクォーツ王家がついている真っ赤な嘘。私はこうやって生きて、貴女に手紙を書いている。
 貴女がこの国の歴史についてどの様に聞かされているかは解らないけれど、私が知る真実をお教えしましょう。
 キングダムガーデンは、ほんの少し前まで幾つかの国に分かれていた。主なものを挙げれば、現国城近辺のクォーツ国、森側のベリル国、海側のカルセドニー国等…。ある時突然、政治的、経済的に他国より有利な規模を有していたクォーツ国は、この辺り一帯の国々を纏めて一つの大きな国にしようとした。勿論新しい指導者はクォーツの人間。弱小国家は文句も言えずそれに従う他無かった。
 でもベリル国とカルセドニー国は黙っていなかった。危うく戦争になるくらい揉めに揉めたわ。でも、最終的には和解した。
 クォーツ国の王妃はその時双子を身篭っていた。ベリル国の王家には跡継ぎが生まれていなかった。カルセドニー国には幼い王子と生まれたばかりの王女が居た。クォーツ国王レーザーは生まれた双子の片方をカルセドニーの王子か王女の許婚に、もう片方をベリルの養子にすると約束し、王権はこの三家で持ち回りにするという条件で自分が初代キングダムガーデン国王となる事を提案し、二国はそれを受け入れた。良くある、体の良い政治的な人質ね。
 もうそろそろ解るでしょうね。貴女はカルセドニーの許婚に選ばれた方なのよ。もう十七歳だし、近々結婚させられるでしょうね。
 そして、私がベリルへの養子に選ばれた方…だと長い間信じていたわ。
 でもある疑問が涌いたの。どうしてクォーツ王家はベリルに養子に出したとは言わず、私が死んだと公表しているの? ベリル側も変だわ、私、養女である事は聞かされているけど、モルガナイト・ベリルという偽名で暮らしている。勿論周囲に養女である事は知られていないわ。
 そう思っていると、ある人がこんな事を教えてくれた。真実かどうかは判らない。だから貴女にこっそり手紙を書いているの。
 その人によると、私は貴女の双子の妹ではなくて、本当の双子の身代わりに差し出された、全然関係の無い子供だとか。クォーツは約束を破って王権を独り占めするかもしれないと。
 だとしたら本物の双子の片割れは今どうしてるのかしらね。心当たりがあって?
妹より

 読み終えると、ボクは焦って書いたと思われる文体や書体が目茶苦茶の手紙を丁寧に畳み直した。
「なるほどね。このモルガナイトに会いに行きたいんだ?」
「そうよ。だから旅に出る準備をして」
「二人で?」
「当たり前よ。この本物の双子の片割れって、あなたの事なんじゃないの? 庶子なんて言ってるけど、それはあなたを匿う為じゃないの?」
 ローズがボクの腕を握って訴えた。ボクは唇を噛む。
「ボクは…真実かなんであれ…知りたくないよ」
「どうして? 本当に双子ならもっと正当な扱いを受けるべきよ、今みたいに私の小間使いじゃなくて」
 ボクは首を振った。
「ボクは煌びやかな服を着て豪勢な暮らしがしたい訳じゃないし…それに、父上がそんな卑怯な事をしているなんて思いたくない」
 召使の扱いとはいえ此処では一般庶民に較べれば随分恵まれた生活を送れている。国王は…父上は、ボクとローズと三人で遊ぶ時は、ボクをローズと同等に扱ってくれた。優しい人なのだ。権力目当てでそんな事を…関係の無い子供を政敵の人質にするなんて、信じたくない。
「私だって思いたくないわよ!」
 今度はローズに突き飛ばされる。
「パライバの言う事には、彼女がそれを認識しているかどうかはさておき、まだ嘘が含まれているのよ。ベリルの人間がパライバに嘘を教えていた可能性もあるし。だから確かめなくちゃいけないのよ! パライバが私の妹であるにせよそうでないにせよ、人質に出されてるのよ? パライバを助けなくちゃ」
 ローズはこうだと思ったら考えを曲げない。
「やっぱりこの手紙そのものが冗談だって可能性は?」
 ボクはローズの気迫に押されながら引き攣った笑みを浮かべて言ってみた。
「それは、カルセドニーの人間とパライバに会ってみれば判るわ」
「その前に父上に訊いてみる方が早いと思うけど」
「どうやって話を切り出すつもり? 突然訊いたら怪しまれるわ。場合によっては殺されかねないわよ。そうは思いたくないけどお父様が血も涙も無い権力の亡者ならね」
 じりじりとローズが迫って来る。ボクは一歩ずつ後ろに下がっていたが、壁の所で掴まってしまった。抱き着いたローズが突然泣き始め、もう何が何だか解らない。
「何でそこまでこの手紙の事を信じるのさ!?」
「お父様に結婚の話をされたの…」
 ボクの顔から血の気が引いたのが分かった。ローズの背中を撫でる手が震え出す。
「かっカルセドニー家の…長男の所にって…」
「カルセドニー家…」
 そうか、その話があるのなら、この手紙の信用度が増す。だっておかしいじゃないか。婿に取るならまだしも、クォーツ王家の正統な後継ぎはローズしか居ないのだし(正統でなければボクもだけど)、たった一人の姫を嫁に出したら一体誰が次の王になるんだ?
「嫌よ! 私まだルチルと此処で暮らしてたいの! 恋人を作った事も無いのに顔も名前も知らない人の所に行くなんて…私は王位を継げると思っていたのに…」
「分かったよローズ」
 我ながら、女の子の涙には弱いな、と思う。特にローズの涙には。
「ボク達で確かめに行こう」
 失敗したって問題無いさ。とにかく、今彼女が降らせる雨が止んでくれれば良い。一先ず彼女の言う通り、城の外に出て足を動かしてみよう。いつもの様に暫くすれば脱走が見付かって城に戻されるだろうが、いつもの事だから、いつもの様にお説教を受けて、またいつもの生活に戻るだけだ。
 真実が何であれ、それを知らない内は。

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