第33章:知らされる真実

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「…アイさん!」
 私は彼女の事を思い出して叫んだ。あの後、兄さんと別れた私は彼女に職員室に連れて行ってもらったり、学校を案内してもらったりしたのだった。
「思い出した?」
「思い出したけど、どうしてアイさんが此処に? お金の為って…」
「お金の為よ。私、実家はカルセドニーの方なんだけど、カルセドニーは財政難だから、社会保障も全然足りなくて。っていうか連れ去られた姫に気を取られて領主様達がまともに政治出来てないっていうか」
「…だからって悪党に荷担して良い理由にはならないわ」
 彼女は私の言葉を鼻で笑っただけだった。洞窟の崖を降りきって柔らかい地面に足をつくと、今度は翠の目の男が言った。
「シトリンはベリル城に無事着いたか?」
「あら、貴方がジェダイドさんかしら? 勿論、モルガナイト姫も無事よ、直ぐに会わせてあげるわ」
 ま、多分檻越しだけど、と呟いて馬に跨がる。盗賊達は持ってきた馬車に乗せて帰る。ジェダイドが馬車に乗り込む間際に言った。
「ターコイズの目的はクリソコーラが良く知っている」
「呼んだぁ?」
 馬車の中から女の声がした。
「…ま、とにもかくにも、一旦ベリルに帰ってからよ」

 皆を探していると、エメラルド様とシトリンが居る部屋に辿り着いた。
「ローズ王女ね…」
 エメラルド様は正気を取り戻したらしい。これまでの夢を見ている様な口調ではなく、落ち着いた、それでいて娘を連れ去られた悲しみと、帰って来てくれた嬉しさ、パライバに対する想いや色々なものに満ち溢れた口調で言った。
「シトリン王女も戻って来られて…あとはカルセドニーのお姫様と神器が戻って来れば全て…」
 終わるわ、とは言えなかったらしく、途中で口を閉ざす。
 エメラルドは私に椅子を勧め、長い沈黙が下りた。
「…本当に良く似てるわねぇ、貴女達。アメジストにはあまり似てないけれど…」
「ご存知だったんですね、私達が庶子である事」
 暫くして口を開いた彼女に問う。
「アメジストがジェダイドに逢ったのは、彼女が此処まで逃げ出して来た時の事よ。彼女、贅沢好きではあったけれど王宮のかしこまった生活は肌に合わなかったみたいで…よくこんな辺鄙な国にまで、たった一人で旅して来たものだわ…」
 …私よりも行動力のある人だったのね…。
「…アメジストが身篭った後、クォーツで何があったかはアメジストから手紙が来たから、教えてあげられるわ」
 エメラルド様の提案に私はシトリンを見た。シトリンも私を見て、迷っている。
「三国が襲われたのは貴女達が生まれた日…私はモルガナイトが攫われたショックで今まで気に留めていなかったけど、夫と…パライバがクォーツからの手紙を取っておいてくれていたわ」
 言って一通の手紙を差し出す。
「貴女達と、ルチル王妃、それからルチレーテッド王女をどうするか、レーザー王の決断が書かれているわ…」
 私はその手紙を恐る恐る受け取った。隣からシトリンが覗き込む。エメラルド様が読みなさいと視線と表情で示されたので、私はそっと、お父様…レーザー王が書かれた手紙を紐解いた。

 ブスッとした顔のブルーレースの向かいで私も口を真一文字に結び、腕と脚を組んで睨み合う事数時間。相手は手強い。
「…パライバが帰ってきたかな?」
 私の隣で微笑みを崩さないでいたサージェナイトが物音に気付いて言った。彼の言った通り、暫くすると廊下から隊長に指示する彼女の声が聴こえてきた。
「盗賊は全員地下廊に。適当に食事とか与えといて後でクリソコーラとかいう人に会いに行くわ。終わったら貴方達は元の持ち場に戻って良いわよ。休憩はなるべく交替で取ってちょうだい」
 そして私達の部屋に甲冑姿のまま入って来る。
「あらこちらは?」
「お帰りパライバ。上手くいった様だね」
「当たり前よ。勝てない戦には出て行かないから。で、どちら様?」
「ブルーレースよ」
「やっぱり」
 私が答えるとパライバはニヤリと笑う。
「着替えましょう! モルガナイト姫も手伝ってくださる?」
「モルガンで良いわよ」
「さあさあ」
 パライバがブルーレースを立たせようとする。
「えっ、ちょっと、私は良いわよこれで…」
「良くない。着替えたら食事にしましょう、お腹減ったわ」
 強引にブルーレースを部屋から連れ出す際、パライバが一人残されるサージェナイトを振り返って言った。
「『女の子はいつも可愛くあるべき』、兄さんの口癖だものね。指輪、ありがとう」

 楽しそうなパライバと嫌がるブルーレース姫、パライバに調子を合わせるモルガナイト姫の三人の背中を見送り、僕は溜息を吐いた。
 ありがとう、か。
 何だか知らないけど「ご機嫌取りはいい加減止めろ」という事だろう。
 僕は一つ伸びをして、他の事を考える事にした。今は僕のアイデンティティや家庭の事情よりも先に考える事が山積みだ。
「さて…オニキスとルチルが心配だな」
 そろそろ乗り込む準備をしなくては。

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