第11章:彼女はまどろっこしいのがお嫌い

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  • 2735字

 翌日。
「旅道具もお土産に持たせてくれたし、情報の対価も貰ったし、さて行きますか」
「ってっ、歩いて行くの?」
 サージェとオニキスが森へと一歩踏み出すのを見て、ボクは呼び止める。
「ベリルまで馬車で数日かかるんじゃ…」
「『迷いの森』を迂回した場合はな」
「招かれざる客でなければ森を抜ける方が早くて安全だよ」
 結局良く解らないが、ボクとローズは渋々その後について行く。
「ほら見えてきた」
 サージェが前方を指差し、ボク達を振り返った所、目を丸くしてその動きを止めた。オニキスも何事かと振り向き、その視線がボク達よりも後方を向いているのでボク達も。
「おおっ、あれが噂に聞くベリル城か」
 ずっと気付かなかったが、後ろからルビィがついて来ていた。
「おおっ、じゃねえよ。何でお前が居る」
「ついて来たから。姉さんに許可は貰ったよ」
 追い返そうとしたオニキスが何か言う前にルビィが先手を打つ。
「…サファイア様が許可してるなら…ルビィは足手まといにはならないし…」
 等とゴニョゴニョ言って再び歩き出す。まあ、この件に全く無関係な訳ではないし、ボク達も同行に異存は無い。
 もう数分歩くと「迷いの森」を抜け、ボク達は苔や蔦に覆われた城の前に立っていた。城の前の庭園に、やはりボクと同じくらいの歳の少女が居た。
 彼女は花の手入れをしていた手を止めると顔を上げる。何処かで見た様な顔だった。
「来ると思ってたわ」
 少女は間引きした花の匂いを嗅ぎながらサージェにそう言った。
「王宮では大変になってるらしいわよ。王女が行方不明になって四日も経つって」
「四日?」
 そんな。ボク達が脱走したのは昨日の話だ。
「『迷いの森』の中では時間の流れが違うんですって」
 意外にも答えたのはローズだった。どうやら昨日(?)ルビィから色々教えてもらったらしい。
「なるほど四日も経ったのか。でも大丈夫、王女は此方に」
 サージェがローズを示した。少女は「これはこれは」と簡単に挨拶して話に戻る。
「これは機密事項?」
「そうだね。今の所」
「じゃあ…」
 その時城の扉が開き、中年の女性が少女を手招きした。
「モルガン、新しい服を仕立ててみたの。着てみてちょうだいな」
「はい、お義母[かあ]様。兄さん達も入って」
 客人に気付いているのかいないのか、少女の母親らしき女性は城に引っ込む。少女に招かれてボク達も中に入った。
「お義母様、お客様がいらっしやったので、お洋服は後にしても良いかしら?」
「あらそうなの? でも早く来てちょうだいね」
 少女は通り掛かった使用人に女性の相手を任せると、ボク達を客間に通した。一体何者なんだろう。さっきサージェを「兄さん」と呼んでいたけど…。
 使用人に人数分の茶菓子を準備するように言い付け、ソファに腰を下ろした所で少女が溜息を吐く。
「相変わらずうちはご覧の通りよ。さて、まどろっこしい挨拶はやめて、用件は?」
「君も相変わらず素っ気無いね。紹介くらいしようよ」
「じゃあさっさとやって。私はモルガナイト・ベリルと申します王女様」
 少女がローズを見て言った。ボク達はハッとする。
「本名パライバ。実を言うと僕の異父妹[いもうと]
「ちょっと、言って良いの?」
「これに関係する用件なんだ」
 腕組みをしたオニキスが代わりに答える。パライバはオニキスの事も知っているらしく、フンと鼻を鳴らして返事をすると、今度はボクとルビィを見た。
「ローズ王女の付き人のルチルです」
 ルビィもボクの後に名乗る。
「あらまあ王族に元王族とか身分の高い人ばっかり。敬語の方が身の為?」
「あ…結構です事よ、話し易い喋り方で」
 終始パライバの堂々とした口ぶりに押され気味だったローズが王女の威厳をもって許可した。ちょっと無理してる感がするけど。
「あらそう。じゃあ早速本だ…」
「あー待ってパライバ。お土産が…」
「何か知らないけどありがとう。で、何で王女様がこんな所へ?」
 サージェナイトが差し出した指輪のケースをふんだくると、パライバはソファに座り直して横柄な態度で聴いた。サージェがボクの方を向いて苦笑する。
「実は王女の元にパライバ・ベリルを名乗る人物から手紙が」
 ボクは言って手紙と産着を差し出す。パライバは手紙だけを受け取ると、丁寧に折り目を開く。
「私書いてないわよ。…あー、なるほど、なるほどね」
 素早く内容を読み終えると、畳んでボクに返す。
「直ぐに嘘っぱちって解りそうなもんだけど、おたくらは信じたって事は、王様は何にも教えてないのね?」
 随分頭の切れる人だな…。
「多分知らないと思うから先に言っておくけど、私は生まれは庶民よ。偽名を使っているのは、お義母様…ベリル領主が娘を失って心の病に掛かってしまったから」
「周囲の者達には承知でモルガナイトの代わりを演じてもらってるんだ。だからベリル領主の前と城の外ではパライバではなくモルガナイトと呼んでね」
 サージェナイトが釘を刺す。
「まあ良い身分よ。本当の家族との面会も許されてるし、領民にはお姫様扱いしてもらえるし」
 それが面倒なんだけど、とパライバはソファの肘掛けに寄り掛かる。指輪の箱を片手に持ち、指で弾きながら尋ねた。
「双子ねえ…王女には心当たりが?」
「一応、ボクがレーザー王の庶子だと聞かされています。歳はローズより一つ下の筈だけど」
 昨日(?)のサージェの言葉が気掛かりで自信が無い。
 パライバは何か言いたそうな目でボクを見ていたが、やがて立ち上がる。
「王宮に戻るよりは此方に居る方が安全そうなの?」
「今の所此方に異変は無いんだね?」
「まあね。まあ好きなだけ居なさいよ。そろそろお義母様が痺れを切らしそうだから、また後で」
 彼女が部屋を出ていった後、サージェが補足する。
「本来はエメラルド様…さっきの領主様の旦那様が領主を勤める所なんだけど、数年前に亡くなられてね…。エメラルド様は始終上の空だし、実質ベリル領はパライバが切り盛りしてる」
 なるほど。
「さてこれからどうする?」
 お茶のお代わりを使用人に言い付けてオニキスが切り出した。
「パライバの無事も確認したし、そろそろ別行動でも良いかな」
 サージェの言葉にローズが駄々をこねる。
「そうは言ってもローズ、危ないよ。何処に罠があるか判らないし、ローズはこの城に隠れているべきだ」
 ボクとサージェが説得すると、ローズはやっと首を縦に振る。
「ルチルはローズと一緒に。僕は外に出て情報を集めたいから、オニキスかルビィのどっちかは城に残って」
「ボク一人で大丈夫だよ?」
「君が狙われているかもしれないんだルチル」
 ボクが?
「…顔が知れてないルビィがついて来てくれる方が良いかな」
 僕がキョトンとしていると、サージェがそう言って何もかも決めてしまった。

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