第30章:妹は気が強い

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 ボクはハッと息を飲んだ。
「ブルーレース姫?」
 ボクがオニキスの言った事を再度確認する様に呟いた。背の高い少女が目を反らしたかと思うと、スカートの下から短剣を取り出して此方に向かって構えた。
「だったら何? 貴方達は? ローズ姫…じゃない…わよね…」
 ボクが男に見えるのだろう、こっちを見ながら自信無さ気に言う。
「違うよ」
「それより、ターコイズって奴もこっちに来てるんだな?」
 ブルーレース姫はオニキスの問いには答えず、空模様の鋭い視線を彼に向けた。
 オニキスは左手を腰に提げた剣に添えてはいるが、まだとても抜けそうにない。
「ブルーレース…」
「何よ、今更兄貴気取り?」
 彼女も気付いて…というか知っていたか。オニキスが生き別れの兄だという事を。
「十七年もほったらかしてたくせに」
 その言葉にオニキスが拳を握り締めた。
「うちでは毎日お前の事を探して…見付からなくて憂いてた…」
 複雑な表情のまま、オニキスが右手を差し出しながらブルーレース姫に一歩近付いた。姫は警戒して一歩下がり、刃を構え直す。
「帰ろう、ブルーレース。母上がどんなに喜ぶか。剣を下ろせ」
「嫌よ!」
 ブルーレースは更に大きく跳びのいて金切り声を上げた。
「私は! ターコイズの為に生きると決めたの! 例え悪の道だろうが、人を殺めようが、彼についていくわ」

「何事…?」
 沈黙した直方体を睨みながら考え込んでいたら、いつの間にか日が暮れていた。今日も「森」が光り始めたと思ったら、どうも様子がおかしい。
『サファイア、早く』
 立ち上がって窓の外を見ようとしたら、例の「書物」が言った。
『ターコイズが私を破壊する道具を持って「森」に来た。さあ早く私を別の世界へ』
「そんな事言われましても…方法も解りません事よ…」
『…そうであったな。仕方無い、暫くは此方で対処しよう。教育係を呼ぶ』

「『書物』め…」
 私は二つの神器を抱えて、不思議な光の中を彷徨っていた。アメジストともいつの間にか逸れてしまったし、ブルーレースがどうなったのかも判らない。「書物」が「森」を操って、会えないようにしているのだ。
 私の行動は制限出来ないが、「森」の形を変えてしまえば、私は永遠に「書物」に辿り着けないばかりか、下手をすれば「森」から出る事も出来ない。
『呼んだか? ターコイズよ』
 頭の中に「書物」の声が響く。その懐かしくも憎らしい声に私は唇を噛んだ。
『そなたもいい加減諦めよ。私を壊したところでシャイニーは戻っては来ぬ』
「どうだろうな」
 死んだ者が還らぬと決めているのは「書物」だ。賢者は死んだ時点でその資格を失い、「書物」の定めるルールに従う。だからシャイニーは還って来ない。
 だが「書物」が居なくなってしまえば?
『…私も簡単には壊れんぞ』
 そう言うと「書物」の声は失せた。怪しげな光の中、あてどなく歩き続けていると、前方に黒い影が見えてきた。
「…コランダム城…?」
 「書物」め、一体何を考えている?

「あの光、消えないわね…」
 パライバが城の塔の先端に上ってきて、「森」の方を見遣って言った。
「二人とも大丈夫かしら…」
 援軍を出したいのは山々だが、ベリル城の警備や二次遭難を考えると下手に人員を割かない方が良いだろう。パライバもそれは承知だ。だから心配する事しか出来ない。
「兄さんはターコイズの目的を探る為に奴等のアジトまで行ったのよね?」
「うん。結局、モルガナイト姫の救出を優先しちゃったけど」
「別にそれは責めてないわ。ただ、場所が判るんでしょ?」
「え? まあ…まさか!」
 僕は妹の考えを掴んでハッとした。パライバは不敵な笑みを浮かべて言う。
「この期に及んでお頭が洞窟の奥で、のんびり部下達の戦いが終わるを待ってるとは思えないのよね…。『森』もなんかおかしいし、あそこまでターコイズって人が出向いて来てると思うの。とすると…」
「アジトの方は警戒が薄いだろうけど…」
 僕は嫌な予感がしつつ彼女の言葉の続きを引き受ける。
「一個分隊借りるわよ…っていうか私の軍隊だけど」
「パライバ! 君が行くつもりじゃ…」
「え? そのつもりよ?」
 彼女は長い髪を束ねながら言った。
「兄さんはこの城とプリンセス達をお願いね。地図描いて頂戴な」
「駄目だ! 描かないと言ったら?」
 パライバは口元を緩めてフッと笑う。
「モルガナイト姫に道案内を頼むわ」

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