一鯰

一期一振×鯰尾藤四郎

ファンノベル(二次創作)です。
公式・原作者等とは一切関係ございません。
同人誌等は「星神智慧」「ほしがみちえ」名義、サークル名「宇宙混沌」で出版しています。

 シリーズ物の途中のページなども一覧表示されますのでご注意を。

  • R15+
  • 6312字

ただ一つの選択肢

「おっ。今朝来たってのはお前か。へし切長谷部」 「長谷部と呼べ」  薬研藤四郎は旧知に微笑みかけた。煤色の髪の付喪神は冷たく返す。その様子を見て、鶴丸国永は事情を尋ねた。 「なに、長谷部は信長さんから貰った名前が気に入らねえのさ」 「それでわざと呼んでるって訳か。ま、とにかく任務をちゃんと熟してくれれば良いがな」 「当然だ。主命とあらば、組む相手が誰であろうが、汚れ仕事だろうが熟してみせるさ」  鶴丸は長谷部の顔を見た。主命とあらば、か。  自分は政府の依頼で、転送装置の開発に付き合ってきた。実験が成功した時、言われたのだ。「もう本霊の所に戻って良い」と……。  自分は実験の為だけに顕現させられた刀。本当にお役御免になるのだ、と悟った時、鶴丸は懇願していた。穂村の服を掴み、初めて彼を「主」と呼んだ。  これまで転々としてきた時とは訳が違う。今更彼と過ごした日々を失いたくなかった。穂村に決定権は無かったが、幸い政府が特例を認めてくれた。こうしてこの本丸の「初期刀」となった訳だが、毎度不思議に思う事がある。  彼等はどうして、顕現した当初から主従関係を理解し、受け入れているのだろう? 「で、鶴丸の旦那。今日は何処に出陣するんだ?」 「……あ、ああ。江戸だ」 「また江戸か。遡行軍も諦めが悪いな」  三振は転送装置へ向かう。行先を設定し、転送を開始した。肉体や精神が分解・再構築される気持ちの悪い感覚の後、見慣れた戦場、江戸の風景が眼前に広がる。  ……見慣れた、時間遡行軍達の変わり果てた姿と共に。 「!?」 「おい、これ……」  鶴丸と薬研は異変に気付き、刀に手を掛けた。 「どうかしたのか? もう先に何処かの本丸が……」  首を傾げている長谷部に、鶴丸が説明する。 「政府は出陣先を一括管理して各本丸に割り振ってる。同じ場所、同じ時刻に二つと部隊が来るのは、一斉討伐の時だけだ」 「じゃないと余計な混乱が起きるからな」  薬研が付け加える。腰を落とし、刃を抜いて両手で構えた。何かが来る。 「無理すんな長谷部。自分の身だけ自分で守ってくれ」 「言われなくても」  長谷部も柄に手を掛けた。直後、謎の言葉が空に響く。  ――罪は許されるべきだ――。 「何?」  呟いた鶴丸の足元に、頭上から何かが転がってくる。遡行軍の首。  ――歴史の異物よ、双方ともに滅びてしまえ――。  耳を劈[つんざ]く異音。それ[・・]が目に入った時、鶴丸にはもう、一つの道しか残されていなかった。

This website uses cookies to ensure you get the best experience on my website.
Details