第1章:THE DOSSSS with Tramonto Familia

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  • 12821字

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初登場ドランクが理想の最強ミステリアスお兄さんムーブしてたり。
霧の島の話までは入っています。


「では、次のライヴの打ち合わせを始めたいと思いますが……遅いですね」
 とある島の、寂れた喫茶店の一角。ハーヴィンの興行主が腕時計を見ながらそう呟いた。店に他の客は居らず、声量を気にせず会話出来るのはありがたい。
 テーブルを囲む面子は、去るアウギュステフェスでバンド併合を発表した元DOSSのメンバーと、元残虐三兄弟のメンバー。そして彼等が属する騎空団の団長であるジータに、併合バンドであるDOSSSSのリーダー・アオイドスのマネージャー兼興行主のジェームズ。
 それから、どうして自分が此処に居るのかさっぱり解らない、という顔をしているフェリだった。

 フェリは数ヶ月前、この騎空団が再びトラモントの地を訪れた際に、艇に乗せてもらった。トラモント島は霧が晴れた事で、ガロンゾ島への経由地として再開発が進んでいた。
 しかし待てど暮らせど、彼女の妹が島にやってくる気配は無い。第一、生きていたってかなりの歳だ。旅に耐えうる体力が残っているというのは望み薄。それなら、元気なフェリが旅をする方が会える可能性が高い、と説得された。島に見知らぬ顔が増えて、やや居心地が悪くなってきていたフェリにも、ありがたい話だった。
 フェリは冷たいジュースのストローから唇を離し、問う。
「まだ誰か来るのか?」
「ええ。キーボード奏者としてゲスト出演をお願いしている人が、もう一人居るんです」
「へぇ」
 ん? ゲストをもう一人? 今この場に居るのは、DOSSSSのメンバーとマネージャーを除くと、自分とジータだけなんだが……と、フェリは嫌な予感がする。ジータが楽器の演奏がてんで駄目なのは周知なのだ。とすると……。
「ちょ、ちょっと待て! そんなの聞いてな――」
「遅れてすみませーん」
 フェリの言葉を遮ったのは、聞き覚えのある声。全員が店の入り口を振り返ると、赤髪のドラフと青髪のエルーンのコンビが、此方に向かって歩いて来た。
「乗り合い騎空艇が強風で一便欠航になりまして」
 スツルムとドランク。傭兵として名高い二人が呼ばれた理由を訝しがる人間は居ない。ドランクに音楽の才があるという事は、先にフェリがシェロカルテと三人で行ったライヴで、皆把握している。
 ただ、フェリだけはその時のドランクの様子を思い出して、眉尻を下げた。
「それは災難でしたね。ちょうど今始める所でしたので、大丈夫ですよ」
 ジェームズは二人に椅子を勧める。会話が切れたタイミングで、フェリは先程言おうとしていた事を思い出した。
「そうだ! ゲストのキーボード奏者って、まさか……」
「そのまさかだ。ユウレイドス。今回は君と、スカイドスにお願いしたい」
 アオイドスが発したユウレイドス、という単語が、自分を指しているのだと理解するのに二秒かかる。
「その話は今初めて聞いたぞ! それに、その芸名は嫌だ!」
「すまない。君に頼むと決めたのは、なにせ昨夜の事でね」
「アドリブらしくて良いですねベンジャミン。ライヴがまだ先なのは興醒めですが」
 フェリの向かい側に座っていたジャスティンが、明らかにフェリと、そしてドランクに敵意を向けた視線を寄越す。
「しかも、よりによって『青い髪のエルーン』に任せる事になるなんて」
「若いのに随分懐かしい呼び名を知ってるんだな」
 そう言ったのはスツルムだ。首を傾げるフェリに補足する。
「十年くらい前に使っていた名前だ、ドランクが」
「そうだねえ~」
 ドランクが口元には笑みを作りつつも、鋭い視線でジャスティンを睨んだ。普段はそう簡単に怯まないジャスティンも、それ以上は口を閉ざす。何故かラカムとジータも恐ろしそうに縮こまっていた。私まで肝が冷える、とフェリはまたジュースで口を湿らせる。
「まあ……キーボードならピアノに似ているから弾けると思うが……その芸名はやめてくれ」
「では……ナガイドスというのは?」
「ナガイドス? 何が長いんだ?」
「髪が」
「……無個性すぎる」
 はあ、とアオイドスは綺麗な横顔で溜め息を吐く。
「それでは…………ハカナイドス、はどうだろう?」
 その辺りが限界か。まあ、ゲスト出演だし、とフェリは渋々受け入れる。
「では改めて、DOSSSS with トラモント・ファミリアの単独ライヴについての打ち合わせを始めます」
 ジェームズが企画書を配る。ラカムは困った顔をした。
「全部で四曲か。こりゃあ練習が大変だな」
 演目は『Bloody Garden』に、書き下ろしの新曲が一曲、『Unfinished Melody』、それから……。
「しかもトリが『創呪擦罪 骨肉相噛[グラッジ・オブ・ザ・スケープドッグ]』だって? 俺達これ弾いた事ねえぞ」
 へぇ、そう読むのか、とフェリはその不思議な文字列を眺める。ラカムが弾いた事がないのなら、残虐三兄弟時代の曲か。
「安心しろアカイドス。その曲が、今の君に荷が重い事は承知だ。ラストの曲は元残虐三兄弟だけで演奏する」
 その時、ドランクが妙な目配せをした。受け取ったジェームズが提言する。
「折角ゲストを呼んでいるんだ。どうせなら、既存曲にもピアノアレンジを施して弾いてもらうのはどうだろう」
「ジムに概ね賛成だが」
 アオイドスは困った様に視線を下げる。
「三兄弟時代の曲は、アレンジするにしても、演奏するには少々難しいものになるだろう」
 つまり、この曲にキーボードを付けるのは、あまり乗り気でないらしい。
「じゃあ、僕の腕前を見てから決めれば良いんじゃない?」
 ドランクの言葉は、一見自信に溢れている様だった。しかし、その言葉の芯の響きは真面目である。スツルムも黙ってアオイドスを見ていた。
「なんだなんだ? 妙にやる気じゃねえか」
「そりゃあ、結構良いお値段で雇ってもらってるからね~」
 ラカムの問いにはそう返す。少なくとも、仕事に対しては誠実だからな、彼等は。
 その後は特に揉める事無く打ち合わせは進み、当日までの大まかな練習予定と、当日のスケジュールが決められたところで解散となる。と言っても、全員グランサイファーに向かうのだが。
「苛つくなら俺をその鞭で叩くと良い」
 店から出たところで、頬を染めたバレンティンがフェリに向かって言った。そんなに機嫌が悪そうな顔をしていただろうか、と省みる気持ちより、形容し難い不快さが勝ってしまう。
「言って良い事と悪い事があるねー」
 それを見ていたドランクが、振り向いたバレンティンの頬を、彼の顔を確認する間髪も与えずに殴り飛ばす。
「代わりにお仕置きしておくね」
「通報されないように気をつけろよ」
 スツルムはそう言うと、特に止めずに他の皆と艇に向かってしまう。フェリはおろおろとその背とドランク達の間で視線を行き来させた。フェリの他には、ジャスティンも楽しそうにその場に残っている。
「良かったですねバレンティン、夢が叶って。尤も、青い髪のエルーンがその台詞を吐くのは失笑物ですが」
「なぁに? 君、僕にボコボコにされたかったの?」
「あ、ああ。もっと冷たい目で頼む……!」
 笑いながら暴力を奮うドランクを見ていられなかった。背を向けて歩き始めたフェリに、ドランクの低い声が途切れ途切れに聞こえる。
「――んじゃ――にさ――がいよ――きてい――。僕なら――じか――とが――たい――をね――」
 それきり背後が無音になった。振り返ると、三人も此方に向かって来ている。
「何見てるんですか」
「べ、別に」
 ジャスティンに睨み付けられ、フェリは慌てて視線を反らす。やっぱり彼等は少し怖い。フェリは少し先でジータが自分を待ってくれている事に気が付くと、彼女に向かって走り出した。


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