第10章:妹を想って

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 オニキスは、サファイア様の事が、好き? っていうかもしかして恋仲? じゃあローズとの婚約はオニキスの意に反してるの?
 とりあえず今見た事は自分の胸の内に仕舞っておこうと決め、宛てがわれた自室に戻ろうとした時、後ろから肩を叩かれた。
「みーちゃったーみーちゃったー。おーじょさまにーゆーたーろー」
「うわっ! サージェ、ナイ、ト、さんっ…」
 あんまりビックリしたもんだから噛んだ。
「サージェで良いよ。ビックリした? ごめんね」
 息が上がったボクを彼は彼とオニキスの部屋へと引っ張り込む。
「サファイア様は元オニキスの許嫁で、彼の初恋なんだってさ」
「へ、へえー…」
「安心しなよ。多分ローズちゃんと結婚するつもりで動いてるだろうから」
 ボクを椅子に座らせ、サージェナイトは微笑む。
「…何?」
「今の情報の対価が欲しいな」
「別にボクが聞いた訳じゃ…」
「でも知りたかったでしょ? 大丈夫、僕は君の本名が知りたいだけさ」
 そして顔を近付ける。ボクは心臓がまたバクバクしたが、短時間に何回もビックリさせられた所為だと思った。
「…ルチレーテッドだよ。ルチレーテッド・クォーツ」
「ふうん」
 サージェナイトは顔を放すとテーブル向かいの椅子に腰掛けた。
「奇遇だね僕もサージェナイト・クォーツが本名だ」
「別に珍しかない名字だよ。またその情報科取る気?」
「今のはサービス。ルチルはレーザー王から自分は庶子だって聞いてるんだね?」
「あなたもあの手紙と同じ様な事言う気?」
「いやいや、事実確認だよ。もう一つ二つ聞いても良い?」
 ボクが溜息を吐くとサージェナイトは言った。
「お礼はするよ」
「あーはいはい。答えられる範囲で答えるよ」
 サージェの蒼い瞳が微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ、ルチルは亡くなった王妃様の名前を知ってる?」
「そんなの…」
 勿論、と言いかけた口が半開きのまま止まる。そういえば、知らない。
「じゃあローズの双子の片割れと一緒に死んだとされる母親については?」
「え、それは王妃様でしょ?」
「うーん、僕の情報を整理するとそうではない気がするんだ…」
 サージェは口に手を当てて唸る。
「勿論ルチルは自分の産みの母親も知らない訳だ?」
 ボクは頷いた。
「レーザー王は徹底して君とローズちゃんから真実を隠しているみたいだね。もしかしたら、レーザー王ではない誰かが黒幕かもしれないけど」
 ボクは体が震え出した。ボクは…そしてローズと攫われたシトリンは、一体何者なんだ?
「…目的は何だろう、サージェ」
 膝の上で拳をギュッと握り、尋ねる。
「解らない…ただ何か理由があってクォーツ王が君達に嘘をついているなら、僕の口から勝手に真実を教える訳にはいかないな。もしかしたら、知る事によって致命的な不都合が生まれるのかもしれないし」
 サージェは言うと立ち上がった。
「この話は此処までにしよう。僕達だけの秘密にしておいた方が良さそうだ」
 ハンガーにかかっていたコートを取ると、ボクを立ち上がらせて肩にかける。
「お礼をしよう。もうすぐ夕食の時間だと思うけど、何かおかしいと思わないかい?」
 突然言われても何の事か解らず、キョロキョロしているとサージェが窓を指差した。
 窓の外が明るい。
「あれっ?」
 ボクは思わず窓に駆け寄ると、外を見た。ローズ達が遊ぶのをやめて片付けに入っている。いやそれは良いとして、ボク達がコランダム領に着いたのは、夕方じゃなかったっけ? もう陽は暮れているはず。
「『迷いの森』が光っているんだ。尤も、招かれざる客にはその光は見えないんだけどね。最上階に行こう。絶景だよ」
「うわあ…」
 サージェナイトに連れられて、宮殿の塔のバルコニーに出ると、視界の下半分が蛍の様な淡い光に包まれていた。
「あれ何が光ってるの? 蛍とか?」
「森だよ」
「発光植物って事?」
「うーん、僕も理解出来ないけどサファイア様曰く森そのものが光ってるんだって」
 ボクはその明かりに照らされるサージェの横顔を見つめた。ふと、王宮の事を思い出す。
「ショール先生怒ってるだろうなー」
「ショール先生?」
「家庭教師。すっぽかして脱走したから」
 サージェナイトが珍しく声を上げて笑った。
「サージェみたいな兄さんが欲しかったな。ずっと」
「何故? きょうだいならローズちゃんが居るじゃない」
「ローズ『姉さん』は全然姉さんらしくないから。妹みたい」
 サージェが口の端を吊り上げた。
「でも、可愛いもんでしょ? 妹って」
 そう言うとボクから目を逸らして森を見た。その微笑み程切ないものをボクはこれまで見た事が無かった。

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